えんさん

たかが世界の終わりのえんさんのレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
1.5
12年ぶりに故郷に帰ってきた、若手作家のルイ。長く故郷を離れていた彼が突然の帰郷を決めたのは、病魔に侵され、死期が迫っていることを家族に伝えるため。久しぶりの息子の帰郷に、母は彼の好きな料理を用意し、妹は普段より着飾り、兄は普段と変わらない冷静な自分を装っていた。兄には結婚した妻カトリーヌがいて、彼女も初対面となる義弟の帰郷と家族とともに待っていた。やがて、ルイは家族と顔を合わせるが、ぎこちない会話を交わしているうちに、それぞれの胸の内が噴出していく。。。舞台劇『まさに世界の終わり』をグザヴィエ・ドランが映画化し、第69回カンヌ国際映画祭グランプリを獲得したドラマ。第89回アカデミー賞で外国語映画部門カナダ代表作にも選出された作品。

若くして死期が迫った主人公が、ゆっくりと自分や家族を見つめ直し、死にゆく準備をしていく映画というのは過去にもありました。僕が好きなのはオゾンの「ぼくを葬る」だったりしますが、本作と同じカナダ映画でも、イザベル・コイシェ監督の「死ぬまでにしたい10のこと」なんていう作品もあったります。ただ、これらの作品は”死”という限りある残りの人生を歩む主人公が、ゆっくりと死と向き合っていく”静”かな作品だったのに対し、本作はある意味リアルというか、すごく過激な”動”な作品だと僕は感じました。”死”というのは残酷な表現かもしれないですが、死ぬ人にとっては主観的なことであっても、遺される周りの人にとっては、過ぎゆく日常が何も変わっていくものではないのです。でも、”死”を迎える人がいなくなってしまえば、その人たちの生活であったり、考え方であったりも多少は変わってくる。しかし、逆説的に言うと、生きている間はそんな瞬間が訪れるとはつゆ知らず、冷たく当たったり、一人よがりなことをしてしまう。本作は、それを死を迎える主人公が客観的に捉えたドラマだと思うのです。

映画を観ていて、ルイがいつ自らの死を告白して、いわゆるお涙頂戴物な形にもっていくのだろうと思いましたが、本作はなかなかそういう”ありがち”な形に持っていきません。むしろ、ルイが故郷を長く離れることになってしまうのも分かるくらい、家族の中のギスギスした空気をリアルに表現していくのです。こういう家族間のギスギスさって、どこの家庭にも大なり小なり存在するものなのだろうと思います。家族とはいえど、人が寄り合って生きたら、そういう空気がどうしても生まれてしまうのです。でも、ルイの家族はギスギス感を誰も止めることなく、不協和音として大きく響かせる。そのことが家族をバラバラにしていることを分かっていても、誰も止めることができないのです。こういうリアルな現実があることは分かっているし、その中でも、ルイも自分の告白をすることで家族を信じたいという想いが心奥深くにあるのも分かります。ただ、ここまでリアルさを見せつけられると、何かを信じて生きたいというのも幻想に思えるほど、辛くなってくるのです。「たかが〜」というとおり、一人のはかない人の命かもしれないですが、生きるからこそ希望を見出したいとも思える作品でした。映画はよくできているとは思うんですが。。