ヤグ

たかが世界の終わりのヤグのレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
3.7
『家族であっても一個人』

【あらすじ】
劇作家として成功したルイは、家族に自分の死が近いことを伝えるために12年ぶりに里帰りする。母マルティーヌは息子の好物をテーブルに並べ、幼少期に会ったきりの兄の顔が浮かばない妹シュザンヌもソワソワして待っていた。さらに兄アントワーヌとその妻カトリーヌも同席していた。最初は楽しく会話をしていたが、お互いに距離がうまくつかめずぎくしゃくしていく。

【映画で学んだこと】
家族だから分かり合えることももちろんあるだろうが、家族であっても分かり合えないことというのはある。いくら家族といっても、血が繋がっているといっても自分とは違う個人だ。一緒にいても理解し合えず自分と相手を傷つけてしまうのであれば、距離を置くことも一つの答えなのかもしれない。家族と自分との心の距離について考えさせられた。同時にコミュニケーションをとることの難しさを感じた。家族は素直にルイに「おかえり」と出迎えたかったはずで、ルイ自身も死が近づいていることを打ち明けたかったはずだ。それにも関わらず12年間の空白、上手くいっているルイと対照的な兄、屈折的な母の愛情などいろいろな要素が複雑に絡み合って上手く想いを伝えられない。コミュニケーションというのはお互いが理解し合うためのものでもあるが、コミュニケーションが上手く出来ていなければこの家族は一生理解し合えないままではないかと感じた。

【感想】
12年間家族と話す機会がまったくなかったためか、家族一人一人ルイは微妙に家族と距離感が生まれており、この距離感の描き方が絶妙なバランスだった。そしてこの距離感によってなかなか会話が噛み合わない。唯一話が噛み合うのは血の繋がりのないカトリーヌというのも上手くできている。またどの登場人物も演技が素晴らしく、食い入るように見てしまった。特にラストシーンは個と個のぶつかり合いという感じで素晴らしい演技であったし、この先どうなるのだろうとハラハラしながら鑑賞できた。そして衝撃のラストシーン、主人公の表情がしばらく頭から離れないと思う。キャラ設定も上手く、会話の中や表情でキャラクターの特徴や性格が分かるし、なぜこんなにも距離感が出来ているのだろう、なぜルイは12年前出ていったのだろうと考えられるところも良かった。そういうことを考えながらストーリーを追っていくと結構面白いと感じた。
ただ基本的には会話劇でストーリーらしいストーリーがある訳ではなく、もう少しストーリーが欲しかった。基本的に家族の喧嘩を延々と見せられるため、少々うんざりしてしまった。ドラン作品はほぼ全て鑑賞しているが、そのどの作品よりもストーリーがなかったように思う。

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