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グランドフィナーレのn0701のネタバレレビュー・内容・結末

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

「覗いてごらん。どうだ、遠くの山が見えるだろ。そうだ。若いときにはすぐ近くに見える。それが未来だ。今度はこっちだ。年を取るとそう見える。全てが遥か遠くに見える。それが過去だ。」

彼らは気づいていないが、そこはほとんど天国だ。アルプスの超高級ホテル。ハリウッドスターやセレブが何人も宿泊する休息の地。

その信じられないぐらい豪華な面々が、ただただのんびりする楽園で、物語の主眼となるのは引退した音楽家だ。

彼はイギリスの女王陛下に演奏会の指揮を依頼される。

だが断る。

彼は名曲「シンプル・ソング」を作ったが、それは妻のために作曲し、妻だけが歌い、妻だけがレコーディングしたものだとして、決して譲らなかった。


人生には浮き沈みがある。
その濃淡や幅は、普通、誰にも分からない痛みとして本人の心の奥底に刻まれる。

指揮者の娘は旦那に別れを切り出される。
「彼女はベッドでは最高」とどこにでもいそうな若い女とどこかへ去っていく。

名監督は53年来の付き合いのある女優に出演を断られる。
「あなたの最後の3本の映画は最低」と蔑まれ、映画の撮影そのものが頓挫しそうになり、そのまま亡くなる。

ロボット映画に出演した名優は、役作りに来たのにヒトラーにはなれないと決断する。



この楽園での個別の物語は、過去や栄光を牢に閉じ込め、囚われた、囚人たちの回想録ではない。

人は培ってきた経験という名の偏見に濁り、自らの限界値とキャパシティを定め、そこに甘んじ、慣れてしまう。

だが、まだ知らないはずだ。

「年を取っただけ。
年を取ることを理解しないまま。」とあるように。

そこにあるのは、人生に最も大切な、踏み出す強さ、決断する勇気だ。

 
指揮者の妻は病に伏している。
彼女の耳には夫の声も届かず、声も発さず、窓から一点を見つめるだけだ。
だが、夫は声をかける。子供たちの知らない自分たちの出会いと愛と悲しみを。

そして、踏み出すことを決断する。

楽園でも天国でもない現実の世界で、指揮者として、女王陛下の前で、世界最高のバイオリンと歌声を届けるために。
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