タクシーという箱庭を誂えてまで持論を展開したかったパナヒ先生の意地と執念がひしひしと伝わってくる。体制に蹂躙される映像作家の“現状”を抽出し、物語として昇華させた手腕は見事。
ただ、大変に意義のある映画だと頭では理解しつつも、この作為はあまり好きになれなかった。自分の中の「これを素直に受け取るのは危ないぞ」アンテナが反応してしまう。
乗客の口を借りて法と国家、そして映画の存在意義を問うあたり、ちょっとズルいというか、どこか不誠実なところがあるような気がして……。
もうこれは完全に好みの問題なのだが、語り口の巧妙さより、もっと作り手の覚悟を見せてほしかったと思う。それだけ。