健多郎

この世界の片隅にの健多郎のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
強く醜い時代の激流に抗う、弱く気高い人々のはなし

戦場を描かない戦争アニメ映画には『火垂るの墓』『風立ちぬ』という大傑作がありますが、この作品はその2作に勝るとも劣らない内容でした
その2作と比べ、戦争よりも人々の何気ない日常に寄り添った本作
徐々に侵食されていく日常
失っても、壊されても、壊れても、強く生きる人々
七十余年前の広島に確かにあった生活と風景
アニメならではの描写も多く、実写では成し得ない美しい世界を描き切っていたと思います

主演ののんさんの演技も素晴らしく、苦しみながらも悲しみながらも強く生きる普通の女性、すずさんを見事に表現していました
あの演技と演出があったからこそ、戦争映画なのに暗くなりすぎず、明るさを持った、笑顔と希望に満ちた作品になったと思います
全てが上手くいく幸せな映画ではありませんが、悲惨な現実の中で人々が必死に掴んだ少しの幸せがそこにある
もちろんそこには変えられない過去も悲しい記憶もある
だからこそ、小さな幸せを大切に思える
戦争を知らない僕たちが観るべき、戦争の悲惨さだけではない、厳しい世界で強く生きた人々の明るさと美しさを描いた素晴らしい作品でした
健多郎

健多郎