あんがすざろっく

この世界の片隅にのあんがすざろっくのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

公開前にテレビのCMでほんの少し見た時に、あっ、これ何だか雰囲気良さそうだな、とは思った。余りにテレビの露出が少ないから、一度ぐらいしか見てないけど、それだけ印象に残る絵だったのだろう。
劇場に足を運んだのは、口コミでその完成度が評価されてからで、
これだけ評価が高いと、どうしても自分の意見の前に「良い作品」というフィルターがかかってしまう。それでもやはり、「良い作品」であることに変わりはなかった。
まず、誰もが大絶賛の、のんさんの演技であるが、この人以外には、すずは考えられない。
のんさんが改名する前、所謂能年玲奈さん時代であるが、「あまちゃん」のアキは、正に能年さんそのものだった。演技をしているとは思えなかったのだ。が、失礼なのだけど、演技の幅はそんなに広くないだろうな、とも思ったのも事実。キャラクターによって色を変えるというのではなく、能年さんに合う役がなければ、この人はずっと「あまちゃん」の名前を背負う運命なんだろうな、と思っていた。
だから事務所問題とか、改名問題がニュースになった時も、重ね重ね申し訳ないけど、この人そこまでして芸能界に残って、今後居場所はあるのかなぁ?そんなに需要があるとは思えなかった。
しかし、彼女はそんな逆境にも負けず、すずとの出会いを果たした。
アキとすず。この二人を自分のものに出来ただけでも、彼女は幸せだと思う。
監督、本当に、この世界の片隅に、のんちゃんを見つけてくれて、ありがとう。
物語は第二次世界大戦も終局間近の、広島県呉市が舞台。
勿論、原爆の描写は避けられない。
それだけでも、暗く重く、後ろ向きな感情がのしかかってきそうであるが、作品は戦火の中での庶民の生活を、ゆっくりと流れるように描いていく。
すずのおっとりした口調と性格が、大きな救いともなっている。
何か困ったことがあると、「どうしようかねぇ。」「弱ったねぇ。」と呟くが、その口ぶりが、何故か肩の荷を降ろしてくれるのだ。
この子なら、何とか乗り切れるだろうと。
戦時中の話でありながら、癒されてしまうという、不思議な感覚。
劇中おっとりと流れに任せて生きているようなすずが、感情を爆発させるシーンが幾つかあるが、その一つが幼馴染の哲とすずの下りと、すずと夫・周作の夫婦喧嘩だ。その夫婦喧嘩には、最高のオチがついている。
そして、そのすずと周作の夫婦喧嘩への過程が、実に素晴らしいのだ。
こんな描き方をアニメで出来るのかと思うと同時に、やはりのんさん以外にすずは演じられない、と実感した。
後半になるにつれて、すずや周りの人達も、嫌が応にも戦争の残酷さを目の当たりにする。
ここから掻きむしられる思いを観客も体験することになる。
だが、映画はそこで終わらなかった。
最後、作品は希望の灯りを灯して幕を閉じる。
何だろう、126分という上映時間の中にアニメ以上の豊かさを盛り込み、戦争を描きながらも、決して片意地を張って見る作品ではない。
迫力で見せるのではなく、時間の流れをじっくりと、味わうように見せてくれる。
見終わってしばらくの間、いろんなサイトで本作のレビューや考察を探していたが、皆さん本当によく理解して見ているんだなぁ、色んな解釈があるんだなぁと驚いてしまった。作中の座敷わらしの正体の解釈など、なるほど‼︎と唸らされてしまった。
追記 2017.10.19
DVDを購入して、再度奥さんと一緒に鑑賞。やっぱりこの作品は凄い。静かな作風なのに、とてつもないエネルギーを持っている。
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