三四郎

この世界の片隅にの三四郎のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
3.1
戦前の都会は華やかで、クリスマスも祝っていて…アニメーションであってもこういう「当時」を正確に再現するというのは、やはり嬉しい。当時の広島の街を再現する為に、生き証人を訪ね、原爆で一瞬にして破壊され失くなってしまったこの街、商店、家をアニメーションで復元。
高校1年生の時、北川景子と小出恵介が主演していた終戦スペシャルドラマを見て「なんてつまらんドラマなんじゃろう」と思ったことを覚えている…。

8月(2017)にベルリン留学から帰国し、大学の講義で偶然知り合った広島出身の子に「なんで知らんのん?!去年めちゃくちゃ話題になったんよ?そんなに戦前の日本に興味あるんなら絶対見るべきよ!広島の子じゃろ!とにかく見んさい!」と言われ、やっと見た。遊郭の話などが削除されていて、アニメーションなので人間の生々しさがいい意味で消えて、なかなか深い物語に仕上がっていた。戦争の残酷さ、空襲の恐ろしさ怖さ辛さ、原爆の哀しさ怒り虚しさ、それは決して映画にはできない。アニメーションだからこそ描くことができた世界、そして暖かい雰囲気と言えるだろう。
私は、この映画に感動することはできない、感動するようなものでもない、そしてこれを見て感動してはいけない、いやこれを見て「これが戦争なんだ」などと言ってはいけない。戦争はもっともっとはるかに想像を絶するもので悲惨なものなのだから。目の前で人が死ぬ、隣で親が撃たれる、そういう世界なのだ。母親、父親が亡くなり、遺骨も見つからないなんて…考えるだけでも私には耐えられない。しかしそれが戦争なのだ。

戦前、戦中、戦後の人々の生活を描いたものとしてはこれに勝るものはないだろう。ただこれは戦争映画でも反戦映画でもない。だから良いと言えるのだ。そして、これを戦争映画、反戦映画として議論してはいけない。あくまで市井の庶民のごく当たり前の生活を描いた映画なのだ。
キネマ旬報ベストテン1位、そして読者選出日本映画ベストテン1位、これは非常に希望が持てる。日本国民は海の向こうにある国々とは異なりまだ純粋な目を持っている。まだ私たちは心を持っている。真の一等国とは、良いものを良いと評価できる、そんな国だろう。
三四郎

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