公開当時大きな話題となっていたこの作品。
非常に気になっていましたが、大体のストーリーを読むと、個人的にトラウマ映画となっていた「火垂るの墓」のような感じじゃないかと思い、少し敬遠気味でした。
ようやく重い腰を上げての初鑑賞でしたが、戦時中を舞台にしているものの、どこかファンタジーのような雰囲気で、イメージがかなり変わりました。
広島県呉市に嫁いだ主人公のすずの目線から描かれる戦争。後半に入るまでは、配給制の中、工夫を凝らして食事を作ったり、皆が協力し合って日々を過ごすなど、戦時中の日常生活をほのぼのと描いていて、穏やかな気持ちで見れる内容。
そんな生活へ徐々に侵食してくる戦争の影。空襲に機銃掃射、頻繁に鳴る警報に気が休まらない日々。大切な人や街が失われていく現実に、すずの明るかった表情がどんどん消えていく様子が印象的です。
そして広島への原爆投下、終戦となり、全てが終わってしまった大きな喪失感が伝わってきます。今でこそ当時の状況は全て知れますが、この時の人々は、先が見えない状況をどう生きなければならなかったのか。その気持ちを思うと、言葉では到底表せません。
「火垂るの墓」のような戦争の残酷な現実をストレートに描く作風に対して、本作では温かみのある日常生活と、本格化する戦争の悲劇の対比が効果的に描かれていたと思います。
そしてラストではそんな空虚感がある中で、僅かに灯った希望の光が輝き出す終わり方でとても感動的でした。それまでが辛い描写ばかりだったのでより一層そう感じましたね。
この映画を通じて、衣食住に不便することが少ない今の時代の有り難み、大切な人と共に過ごせる日常の素晴らしさを改めて実感しました。押し付けがましい演出はなく、静かながらも確かなメッセージを受け取れる名作です。
