ちろる

ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声のちろるのレビュー・感想・評価

3.8
よくあるような特別な才能がある少年と情熱的な教師の青春師弟ものではなく、不良少年ステットが、少しずつ自分の才能を、受け止めて答えていこうとする流れがとても自然でとても好感が持てる作品。

ダスティホフマン演じるカーヴィル先生はまぁよくあるハートフルな感じの先生ではなく、どちらかというと淡白で厳しくて、なんなら冷たくも感じるけど、今しかない声を大切に育てて欲しいと思う熱い想いがとても心に沁みた。

小さい頃ウィーン少年合唱団の天使の歌声を聴いてとても感動したことを覚えているけど、大人になり、男の子の声変わりの事実を知るようになった頃、あぁいうボーイソプラノの少年合唱団はなんだか少年のピュアで美しい時期を搾取しているような残酷さをなんとなく感じて、きみ悪い違和感を覚えるようになったことを覚えている。

でもこの映画をみてなんとなく、その違和感を消化することができた。

少年たちが束の間に神様からもらった天使の歌声は彼らにとって声変わりするまでのたった数年のもので、だからこそ儚く、美しく残る。

彼らはその日がその日が来るのを恐れながら、そしてどこかで解放される日を待ちながら、少しの時を過ごす彼らの「時間」というものに対して、カーヴィルはしっかりと受け止め、少年たちにこれらがただ過ぎ去るだけの経験ではなく、これこら訪れる人生においても、その瞬間、瞬間を大切にしようと思う心を育てようと想いが伝わっている。

はじめに全てを失って何事にも投げやりだったステットが、しっかりとこのカーヴィルの想いを受け止めて、自分が与えられた幸せを素直に受け入れられるようになるところでなんだかこの映画の伝えたい想いがしっかりと消化されていてとても良かった。
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