櫻イミト

金星人地球を征服の櫻イミトのレビュー・感想・評価

金星人地球を征服(1956年製作の映画)
3.0
“金星ガニ”が有名な、B級映画の帝王ロジャー・コーマン監督による初期SF映画。

人類の現状を憂う科学者アンダーソン博士(リー・ヴァン・クリーフ)は、ついに金星人との電波交信に成功した。彼らの技術力を借りて地球を改善しようとのめりこむ博士とその様子を心配する妻クレア。一方、街ではコウモリ状の生物に刺された人間たちが人格を豹変させていた。アンダーソンの親友ネルソン博士(ピーター・グレイヴス)は異変に気付くが。。。

“金星ガニ”のユーモラスな造形とは裏腹にハードな人間ドラマが展開し意外な面白さだった。

本作が作られた時代は赤狩りの総括批判期にあたり、マッカーシズムを題材とした「サレムの魔女」(1957)などが製作された。

コーマン監督に政治的意図があったとは考えにくいが、本作で描かれる洗脳と人間同士の分断はイデオロギー闘争の虚しさを反映しているようにも見える。洗脳された妻は躊躇なく射殺され、もう一方の妻は敵リーダーに直接対峙し惨殺されるという無慈悲さ。“金星ガニ”の造形が話の緊張感を削いでいるものの、本作を寓話として捉えるなら印象深いキャラクターとして大きな役割を果たしている。

SFもホラーも人間ドラマが面白いのが重要と再認識させられた低予算SF映画の佳作。
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