eulogist2001

光のノスタルジアのeulogist2001のレビュー・感想・評価

光のノスタルジア(2010年製作の映画)
3.4
天文学において遠くを観るということは、より遠い過去を知るという事だ。その意味で遠くまで観る事が出来る土地は貴重な場所なのだ。そして空気が乾燥して高地にあるということで天体観測に適した南米のチリには天文台がたくさんある。

そのチリでは70年代の軍事独裁政権下で大規模に拷問や虐殺が行われた。いまもなお真相は明らかになっていない。はるか遠くの天を仰ぐ天文台が置かれる膝元の砂漠では虐殺された家族の遺骨を探し続ける女たちが大勢いる。

そうした天と地の情景を天体の美しさを参照しながら、また過去を探し求めることと対比して、乾いた美しく透明な画面で描く。向き合う時間軸の距離感の対比が天文学者と遺族の双方に光と影をもたらす。観ているものもそのスケールの差を埋めるように考え、感じる事でいつの間にか宇宙や足下の自然や肉体と同じ地平で同化させられる。

壮大な宇宙のドラマと同様に、この小さな人間も宇宙そのものである。
eulogist2001

eulogist2001