石井岳龍の『蜜のあわれ』は千態万状の不自由さの中に唯ひとつしかない自由さを追い求めて生き続ける映画です。
既に『爆裂都市』や『狂い咲きサンダーロード』から何千日も経っているというのに、少しも退化しない風切り羽を持つ石井岳龍(未だに聰亙という名の方が好きですが)がまだ大海原を渡る力が少しも衰えてはおらぬようです。
その気になれば人々の悲喜こもごもの諸相を 別の宇宙からでも活写できるのに、敢えて千態万状の不自由さの中に唯ひとつしかない自由さを追い求める姿がファンとして嬉しい限り。
その自由というのが金魚の二階堂ふみ、老作家の大杉漣、幽霊女の真木よう子ら三人が相反目し合いながらも共存し、ありとあらゆる有象無象と共に作り上げられる石井宇宙の喜悦の大渦に他なりません。
大体、あの金魚ダンス自体が未だ誰もその全容を知る者がいない現世(うつしよ)そのものではないか。
やはり笑ってやらねばなりませぬ