jonajona

シン・エヴァンゲリオン劇場版のjonajonaのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

涙で救えるのは自分だけだから。

ほんとにさよなら、エヴァンゲリオン。って感じだった。さよなら、碇シンジくん。って感じでもある。

世界的ヒットコンテンツへと本シリーズを昇華させた旧劇の衝撃的な幕引きとは対象的な、悪く言えば『優等生的な』よく言えば『爽やかで総決算的な』大団円エンドだったように思う。
僕は断然後者を推したい。
ただ、よくよく考えると一見おとなしく収まったような終わり方に見えるものの、かなり反骨精神に溢れたエンドじゃないかと言う気もしてくる。

庵野秀明監督は、やりたい放題やってるようでいて、実際の所『時代性』つまるところ自分のファン達が何を見たいのかをトコトン追求したい人なのかも…と今回改めて思った。それが自分の趣味と両立してるのが離れ業で天才的なんだけど。

本作まで見てようやくQは問題提起の意味で、タイトルが四部作と謳いながらも一つだけ逸脱した『シンエヴァ』なのかガッテンがいく。この新劇の最大の目的は『エヴァンゲリオン』という物語からのキャラクターの解放だったんだと。

声優みてびっくりして調べたら、ラストの大人シンジくんが神木隆之介君だったということで何となく腑に落ちました。
神木くんというと子役出身人気俳優で、生まれてからずっと演じる世界に身を投じてる人と言って過言では無い。
視聴者に『ぼくらのシンジ君』を期待されてしまう碇シンジの成長した一個人として充てがう声優としてこれほど最適解はないのではないかとすげぇってなりました!

シンジ君は今回序盤、前回Qからのショックで御神木状態になってしまうのですが、そこからの立ち直りがすっごい普通!!
エヴァの期待を裏切り続ける期待…という矛盾を孕んだヒリヒリ感は皆無の暖かいスローライフを生きる中で人の心に触れて成長する1人のごく普通の少年の物語になる。
綾波への喪失感、アスカへの贖罪の気持ち、ミサトさんへの感謝、いろんな感情に徐々に向き合って言ってしまえば『普通!!』至極真っ当なストーリー。

この違いはなんだろうかと思ってみると、今がSNS時代ということと、庵野監督の想定の視聴者が『旧劇からのファンだった当時の子供たち(つまり大人)』であり今や見送る側になってしまったことがあるんだと思います。

シンジの話はもういいでしょ。あいつに好きな場所に行かしてやってくれ…というエンドなのかな。
なんか感動しました。

SNSがこれだけ普及すると、当時のように孤独感や自己憐憫にインパクトを置いた物語では意味がないのかな。TVで毒舌キャラの人がネットで苦悩を吐露して共感を集めることもできる時代。言ってしまえば作中でも言われてたように『誰にだって』苦悩はある。シンジ君だけの苦悩を、シンジ君に想いを寄せて観られる時代じゃなくなった…と言うことかもしれません。
そう思うと少し寂しいけど。

今思えば、Qはまさに問題提起で、衝撃展開として一気に時間軸が飛んだのですが、それによってシンジ君だけが物語世界から取り残された。もちろん主人公である我らがシンジ君に感情移入して見てたので、唖然として孤独感を分かち合った…つもりでいたのですが、そうじゃなくて実際は『シンジ君を取り残したのは貴方達じゃなくて?』という監督からのQだったんじゃないかと勘繰っています。
シンエヴァでは、どうもシンジ君の内面への感情移入ではなく周囲への感情移入に重点が置かれてる感じ。というか、少し遠景というか距離を置いてシンジ君を見る感じ。

エヴァが為すべきテーマの物語はもう不要なんじゃ無いか?ということかと。

アスカはケンケンともうデキてるという衝撃の展開もおそらく旧作ならもっと手酷く描いてた所が、本作ではシンジ君がショックを受けてる描写すらない。
世界を受け入れてからのシンジ君は迷いなく碇ゲンドウと向き合う為、子供の戯言はやめて動き始める。
アスカもシンジに思いを残しつつも、もはや昔輝かしかった同級生の哀れな姿を見てられない人みたいな距離感だし、綾波は綾波ではなくて綾波だし、ミサトさんには本当の息子がいる…
描き方が変わってるからそう見えないけど、シンジ君は実際の所旧劇シリーズより辛い目に遭ってる。相変わらず『誰にとっても自分は不可欠な存在ではない』って状況だから。さらに綾波も死んでて『破』までの『自分が愛する誰かの為に』もなし!
誰に不可欠と思われなくても、誰か今すぐ心底愛する人がいなくても、周囲のつながりに感謝して生きる。死ぬほど真っ当な精神をシンジ君はついに獲得して、
『綾波とくっつくかアスカとくっつくか』『次はどんな鬱衝撃展開が待ち受けてるんだ』と言ったエヴァシリーズへの期待を肩透かししてただ爽やかにアスカへの気持ちを告白して、綾波・カオルを呪縛から解放して、世界を救う。

まさかのマリエンドには度肝を抜かれましたが、見終わってみると全く嫌な気がしないすんなり受け入れられる終わり方。(結局マリが何なのかあんまりわかって無いんですけどね…笑ゲンドウの同期のコピーなのあの子?ゲンドウ君って言ってるし思い出にも出て来るし。)
最後まで本当に余裕綽々というか、全く精神的に不安定な所を見せない。ある意味マリにはミサトやアスカが旧シリーズで見せた『実はあいつだって…』という苦悩が見えないキャラ。不自然なくらいなんですね。そこから監督のメッセージを考えると『見えないところを想像しようぜ』ってことになるのかな…。逆に言うとシンジ君にとって『まだ裏側を知らないキャラクター(他者)』だから説明がないということなのかも。シンジ君が1人の自立した人間として物語に囚われたキャラ達を解放したのちに、漸くそこでお疲れ!!と言わんばかりに後ろから追って迎えに来るフォロワーであり他者的存在…それが本シリーズにおけるマリだったのかなと思いました。マリがようやく魅力的に見えました。

とにかくこれにて、さよならエヴァ!
jonajona

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