不在

ぼくの伯父さんの不在のレビュー・感想・評価

ぼくの伯父さん(1958年製作の映画)
4.8
ジャック・タチ演じるユロ氏は大層な家に住んでいるが、その中で生活している様子は描かれない。
タチはわざと詳しい描写を避けている。
私生活が謎に包まれているからこそ、良い意味で彼を突き放して客観視する事が出来る。
彼の悲劇を笑う事が出来るのだ。
かといって観客はユロ氏を冷笑しているのかと言われれば、決してそうではない。
彼と気持ちが通じ合って、思わず笑ってしまう場面もあるのだ。

実際ユロ氏は普段どうやって生きているか想像もつかない。
車はボロいし、働いていない感じすらある。
友達も少なそうだし、服もあんまり持ってなさそう。
しかしこんな事を心配していては、なんにも面白くならない。
感情移入と拒否反応の間を行ったり来たりすることで、自分との共通点で笑い、逆に相違点でも笑えてくるのだ。
この共感と違和感の絶妙な距離を見出せるほど、彼は人間をよく観察し、愛していた。
不在

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