金春ハリネズミ

バービーの金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.5
※長文すぎる。

世界ではじめに劇映画を撮ったのは、アリス・ギィという女性の映画監督だった。
という話があります。

彼女は1906年に「フェミニズムの結果」なる作品を撮りますが、そこでは男女のジェンダーロールが逆さまになった世界が広がります。

「バービー」は、どうでしょう。
2017年、ニューヨークタイムズがハーヴェイ・ワインスタインの度重なる性加害を暴露して以降、とりわけ「ジェンダー」を取り巻く問題が世界的に波及しましたか。

起爆点となったアメリカでは、フェミニズムやLGBTQをはじめ、あらゆる多様性に声をあげています。
それはときに世界中の社会的少数者の心を救い、ときにマジョリティの目下、フェミニスト、人権派などと託けられ、揶揄されてしまいます。

団塊世代に産まれた世界中の若者達が、従来の共同体を嫌がって、自分だけの人生讃歌を叫んだ時代がありました。
彼らが共同体なき亡者として、70年代後半を皮切りに、自ら自滅していったように、ジェンダー問題もまた、その渦中に居る人々にとっての向かうべき終着点が、あやふやになってしまっているように感じます。

ジェンダーロールによる分断と差別を訴えながら、結果として、「フェミニズムの結果」よろしく、社会には違った形での分断が生まれてしまっている。

僕たちが目指している未来は、一体どんな未来だったのだろう。
「バービー」を媒介に、この問題について今一度フラットに、考えたくなりました。

本作では、大きく男と女のジェンダーロールが掲げられ、殆どそのモチーフに限って物語の推進力が生まれています。
フェミニズムとはいえ、男女二つの関係に「性差」があることは誰も否定できないんじゃないでしょうか。
この問題は誰が悪いとか、正義だとかで片付けられる問題ではない。
女がバリバリ働いて重役に就き、男が家で子育てと家事をすればいい。そうしなければならない。
そんなことを唱えるひとは誰もいないですよ。

ここではない、新しい共同体を描くのは容易ではありません。
まだ見ぬ曖昧な世界へ足を踏み出す勇気が必要です。
その勇気を後押しするには、仮想敵が必要。
我々の行動が正しいことを、逆説を盾に証明しないといけない。

こうして、新しい分断が生まれる。
歴史は繰り返されてしまいます。

バービーが唱えたのは、いま一度、この時代がどこへ向かっているのか、その根拠を見つめ直そうよ。そういう問いかけではないでしょうか。

長くなったのでこの辺にしておきますが、大切なのは、男とか、女ではなく、「愛すべき隣人」を大切にしたい。
そういう価値観が、これからの世の中を、もしかしたら善い方に変えてくれるかもしれない。個人的にはそう思うっす。ちっす。

いろんな映画のオマージュがあって、グレタ・ガーウィグの「映画愛」を改めて感じることができたんだよ。