Kuuta

バービーのKuutaのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.8
マッチボックス20で爆笑。あの何とも言えないこぶしを再現するライアン・ゴズリング最高だった。原曲を聴いたことがない方はぜひ聴き比べてほしい。

今年一番楽しみにしていた新作。
「役割からの解放を望み、自由と不安を味わう若者」に、フェミニズム的視点や、9.11以降行き場を無くした(男性中心の)アメリカ社会に対する批評までさらりと重ねるグレタ・ガーウィグ。

故郷と都会、過去と現在、理想と現実、二つの世界で引き裂かれる女性。母娘の別れ、移動するティーンエイジャー。モチーフは今作も変わらなかった。

彼女は「アメリカの寓話の更新」を図ってきた。レディバードは西海岸から東海岸へ上京する18歳が、ありし日の「西」を振り返る現代版「怒りの葡萄」だったし、ストーリーオブマイライフはかつてのアメリカを生きた女性の「理想と現実の衝突」を、視線の交差や肉体の回転で描いた作品だった。

「行きて帰しアメリカの古典」に正面から取り組む、大変ガッツのある監督だと思っている。新作がバービーの実写化と聞いた時はなるほどそう来たかと思ったし、とてもとても心待ちにしてきた。冒頭のバービーランドで「やっと見れた〜」と泣いていたのであまり冷静な感想ではない。

・死を意識し、地に足をつけ、涙を流す。ツルツルの記号が身体性を取り戻していく、教科書通りの演出が重ねられているが、このオチはこの映画でなければできない

・ケンに家はなく、家を失った反動としてのマチズモ、議会の占拠、トランプ現象?工事現場の親父たちをも包摂できないか

・モノリスとしてのバービーは、女性を進化させた一方、女性の役割を規定し苦しめた。叩き壊される赤ちゃん人形。バービー批評としてフルスイングしていて気持ち良い。

・バス停のお婆ちゃんと、バービーに会ってテンション上がったお母さんのカーチェイスで泣いた

・女性だけの社会が良いわけではなく、現実の男性社会が良いわけでもない。双方等しく歪んでいて「片方が崩れればもう一方も崩れる」設定だったのが、フィクションが現実の問題に無関心ではいられなくなった今っぽくて面白い。虚構のテンプレが崩れるとグッズが売れる=社会問題や運動をフィクションに取り込むことが、マーケティング的に正しいから推すという、今の映画の作り方への批評にもなっている。

・双方がごちゃ混ぜになっていく終盤、虚構と現実の果て、創造神がバービーの世界を作り変える、これ自体は良いのだが、その手前のケンとバービーの議論も含め、虚実入り混じる心情をもっと映像で描いて欲しかった。会話が多いなと思った。

レディバードは会話に絡まるガラスや扉の演出が抜群だったが、バービーランドは映画的なロケーションに乏しい。例えばバービーの家の中で、マリッジストーリーの様な地獄の会話劇が展開されたら、もっと面白かったと思う。

ミュージカルの絵作りも、もう一声頑張れなかったか。セットは凄いんだけど、ショットのメリハリが弱く、情報量の洪水でクラクラさせられるような感覚は味わえなかった。同じワーナーなので比較してしまうが、改めてレゴムービーって凄かったんだなと思った。

・男性の知識マウントを相対化し、女性をwokeさせるくだり。この映画自体が無限の映画うんちくで出来ている訳で、作り手のそういう側面も含めて相対化しているのだろう。今作には女性側の雑な認識も散りばめられており(ケンの体を揶揄するセリフ、プロテインで筋肉付けるのはおかしくないやろ)、監督自身が配役にツッコミを入れるように、相対化と変化の中で、自分が何者か探し続けることが「人間」だと謳う。絶対的なゴールは死のみ。

とても正しく、鏡のようによく出来た映画だ。ただ、終盤は上記した映像のメリハリを含め、物足りなかった。例えば「男女の対比」が強調される反動として、エクスキューズのようにアランが何度も映る。全方位に隙が無い作りは結構なのだが、そもそもこの設定にしなくてよくね?とは思った。お行儀の良さが作品のテンポ感より優先されているというか…。
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