犬里

バービーの犬里のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.0
本国SNSに本当に失望して(SNS上でやらかしたことにSNS上で謝罪コメント出していないので、実質的に何の解決にもなっていない)行くのやめよ……と思ってたんだけど、散々迷った結果、楽しみにしてた映画ではあるし、そろそろ終わりそうだからやっぱり観ておくか〜と思い直し、無料鑑賞ポイントがたまってたので観ました。(興行収入には貢献しない)

【総合評価】
全体的にいまいちノレず。何だか評価が難しい映画だった。フェミニズム的な重いメッセージが色々と込められていることは分かるんだけど、結局のところこの映画を見て、自分は何を思えば良いのか分からない。(エンパワーされる感じはなかった)
幼少期に着せ替え人形を買ってもらったことが一度だけあるが、どう遊んでいいかいまいち分からなくて、ハマらなかったなぁということを思い出した。

【良かったところ】
全体的にビジュアルが見てて楽しい。マーゴット・ロビーは可愛いし、ライアン・ゴズリングの見た目も良かった。アジア人ケンを(シャン・チーでお馴染み)シム・リウが演じていたのも良かった。シャン・チーはコミックスの顔のイメージと違っていたので違和感あったけどこれはハマり役だと思う。
バービーランドの建物・服装・乗り物などは玩具をライフサイズで再現していてすごい。
元ネタには詳しくないけど、全部元になる玩具があるであろうことは想像に難くない。

人間界に来たバービーがバス停で高齢の女性と、「あなたは綺麗」「知ってる」と会話するシーンは良かった。あの場面があるから、バービーは(ルッキズムに左右されず)年老いていずれ死ぬ人間のことも、素直に美しいと思えるであろうことが分かる。

鬱バービーの下りも良かったね。これまで元気で自身に溢れていたのに、そんな自分が遥か彼方に消え去ってしまい、どうやっても戻ってこない、自分を醜く哀れなものとしか感じられない、そういう鬱な気分の描写は上手かった。現実ではずっと立ち直れずに、その気分と付き合い続ける必要がある場合もあるけど、バービーは元気で夢のある女の子だけじゃなくて、元気のない人の味方でもあるというメッセージに感じた。

【良いと思えなかったところ】
まず冒頭の、赤ちゃん人形が否定されるのが悲しい。赤ちゃん人形をお世話するのが好きな女の子が否定されているように感じた。(赤ちゃん人形の世話をする女の子を肯定することは、家事や育児を女性がするものと決めつけることとイコールではない)

マテルのCEOや重役たちを、「女性のため」とか言っているだけの駄目男みたいに描いてたのもどうなんだ。ケンの玩具が売れることを止めようとする描写があり、お金のためだけじゃない、本当に志のある人なんじゃないかと思えるシーンもあった。しかし、総合的に嫌な印象のギャグキャラみたいにしてしまっている。

ケンが現実世界で自分を肯定されたように感じたのは、「たまたま」あのケンが「白人」男性のケンだったからだ。黒人、アジア人などのケンがロスに行っても、あの肯定感は得られなかっただろう。むしろ肌の色で人を差別するような現実社会に失望したのではないか?映画の尺もあり「白人男性」という(アメリカで強い力を持つ)属性を「男性」にすり替えているけど、人間の属性って性別だけじゃないだろと、やっぱり引っかかるものがある。

バービーたちがバービーランドを取り戻すのが、議会乗っ取りという反民主的なやり方なのもどうなのと思ってしまった。トランプの議事堂占拠じゃないんだから。そうして騙し討ち的に・暴力的に得た世界を肯定するのも良くないと思う。

(ケンダムを構成する愚かな“男性”としての)男性側のドールは「ケン」しかいないのだけれど、肌の色が違うだけでバービーのような個性はないんだよね。ケンは“patriarchy”(家父長制)な社会を素晴らしいと感じたけれど、ああいうホモソーシャルな社会が苦手な男性もいるだろう。「男ってこういうもの」と描くことで、そうではない人を否定してる感じがした。
また、バービーに恋してて、尽くしたいケンが突き放される(作中で否定される)のも、「尽くしたい」男性だって現実にいるだろうに、それを否定しちゃうのかーと思ってしまった。
アランがその立場の男性だったようにも思うけど、オロオロしていて何を言ってもみんなからシカトされ、いいところ無し!これもこういうスタンスの男性を否定する描写だろう。
ケンたちに関しては、バービーランドで今後各ケンがアイデンティティを探していくうえで、もっと個性が出てくるのかな。

各自の自由な生き方を肯定するようなテーマでありながら、随所随所にそういう、人のいろんな考えや個性を否定する(笑いものにする)ような要素があったように感じて、引っ掛かってるのかも。
犬里

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