犬里

関心領域の犬里のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.3
「きっと大きな事件やドラマチックな展開が起きるような映画ではないのだろうなぁ」と事前に予想していたけれど、果たしてその通りの映画だった。
カメラワークもドラマチックにアップになるような動きはせず、静かに淡々と日常が流れていく。固定カメラの視点と、朝晩問わず聞こえ続ける怒号や悲鳴や銃声は臨場感があり、映画館でこの映画を観ている自分も一家と一緒に傍観者になっているような居心地の悪さを常に感じる。
優しく明るい日常風景の中に、囚人から奪った衣類や、子供が遊び道具にしている歯など、一家は無関心なだけではなく、明確に囚人たちへの暴力を認識し奪う側の人間であることが描かれる。
明るい光が射し込む日常風景と対照的に、赤外線カメラで撮られる少女の姿は、囚人に食料を与えようとりんごを埋め続けている。人間の希望のような彼女の行動は、一見、悪夢のような撮られ方をしているのが印象的だった。
「落下の解剖学」で迫真の演技をしていたザンドラ・ヒュラーが妻役を演じていて、今回も複雑で繊細な演技を見事に演じていて素晴らしかった。

ラスト、唐突に現代の博物館となったアウシュヴィッツの光景が挿入される。淡々と掃除される光景に、現代の人たちも殺されていった人たちを客体化してしまっているような印象を受けた。現在はあの惨劇から切り離された別の未来じゃなくて地続きのものであると感じた。
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