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バービーのmoviefrogのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.8
この映画には、クラシック・バービーは冒頭の「2001年宇宙の旅」パロディ以外には全く出てこない。70年代、80年代のバービーもおよそ見当たらない。出てくるのは90年代以降のドールばかり。

過去モデルのバービーが「バービーランド」に存在しないことは作品の根幹に関わる問題だと思う。

マテル社がいわゆる多様性への配慮を明確に示したのは、例えば1998年の車椅子に乗ったベッキー発売であったり、2019年のバービー・ファッショニスタ・シリーズ発売であったりと、バービー人形の歴史の中では比較的最近のことなのだが、この映画内ではそこがぼかされている。

極端に痩身で、非現実的な体型が美しいとされた時代のクラシック・バービーを出さないことで「バービーランドは永遠不変の理想的世界である」という歴史改変がなされているわけです。

バービー人形には、フェミニズム問題の前に、ルッキズム問題がある。バービー人形は長期間にわたって「ファッションドール」として存在してきた玩具であり、人種の画一性、肉体の非現実性は時代が変化する毎に激しく批判された。

批判に呼応して、痩身バービーは現行ラインからは廃番になり、人種も体型も職業も多岐多様なラインナップに行き着いた。この「バービー史」が映画「バービー」からは消されている。昔の「極端に理想化」されたバービーの存在は、「バービー」と銘打った映画からは絶対に隠してはいけないはずだ。

徹底したピンクの美術や、ミュージカルシークエンスは素晴らしい。ケン人形の悲哀もよく描かれている。しかし、フェミニズムのあれこれを描くことありきで、バービー人形におけるルッキズム問題が曖昧にされていることに、ズルさ、ご都合主義を感じる。

そしてラストの「性」の問題。人間として生きるには「女性」としての「性」が必要だ、的なバービーの無邪気さがなんともいえない嫌な感じで、なんかもう本当に古臭い!非常に胸くそが悪い!薄っぺらい!なぜ今の時代のプロトタイプ・バービーにこんな行動をさせるのか。脚本に大いに疑問。これ本当に問題作です。これ本当にフェミニズム映画ですか?
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