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ノクターナル・アニマルズのfujisanのレビュー・感想・評価

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
3.6
GWにオススメの考察系サスペンス映画。

ドゥニ・ビルヌーブの「メッセージ」で、主人公の女性言語学者を演じたエイミー・アダムスを主人公に、ジェイク・ギレンホールやアーミー・ハマーなど、実力派俳優が勢揃いした本格サスペンス。

男女の愛憎のもつれからくる殺人ミステリーや復讐劇の軽いタッチのポテチ映画かと思いきや重厚な考察系サスペンス映画で、途中で背筋を伸ばして観た映画となりました。

また、GUCCIなど数々のトップブランドのチーフ・ファッションデザイナーを務めながらも映画監督という、超ハイレベルな二足のわらじをはいたトム・フォード監督の作品らしく、スタイリッシュでアーティスティックな雰囲気もあり、比べる作品があまりない、独特の魅力がある作品にもなっていました。



映画のあらすじを軽く紹介します。

かつてはアーティストを目指し、今は美術ギャラリーのオーナーを務め、夫と二人で優雅に暮らすスーザン(エイミー・アダムス)。豪邸に住むことはできていますが、夫は出張と称して隠すことなく浮気をしており、スーザンは不眠症に悩んでいました。

そんな空虚な生活を送るスーザンのもとに、元夫のエドワードから一冊の小説が送られてきます。タイトルは『ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)』。元夫は小説家を目指していましたが、才能の無さからスーザンから別れを切り出した過去がありました。

不眠症に悩むスーザンはベッドで何気なく小説を読み始めますが、その素晴らしい内容に驚き、読みふけってしまいます。

小説の内容は、ドライブ旅行中の家族が犯罪集団に絡まれ、妻と子供を殺された気弱な男性が犯人に命がけで復讐を果たしていくというストーリー。

スーザンは、そのストーリーに没頭するうち、これを書いた元夫エドワードと再会したくなります。『読んだ感想がほしい』。そう同封されたメモをたよりに連絡を取るスーザン。二人はレストランでの再会の約束をするのですが、はたしてエンディングはどうなるのか・・・。

ここまで書いてもネタバレにならないのは、本作はオープンエンディングになっており、見る人によって解釈が分かれること。また、本作が『映画内小説』の入れ子構造になっており、観ている途中から解釈は分かれ始めるなど、本作をどう捉えたのかが重要になる映画だからです。

観た後に、他の方の感想が知りたくなる考察系映画。ちょうどアマプラ見放題も始まりましたので、GWのお供にいかがでしょうか。


(以下は私の感想です)












本作のエンディング。
露出の高いドレスを着てレストランで元夫エドワードを待つスーザンの前に、エドワードは現れませんでした。

これを、エドワードによる復讐劇と捉えるか、今も残るエドワードのスーザンへの思いと捉えるか、ここが解釈が分かれるところです。

まず自分が思ったのは、エドワードによるスーザンへの復讐。小説家として成功し、自分を捨てて他の男に走った元妻への復讐だろうと。

ただ、単なる復讐ならこんなに凝ったやり方をしなくとも、自分が小説家として有名になればいいだけの話なのでは、と思い始めました。

エドワードがスーザンに贈った小説の題名は、『ノクターナル・アニマルズ(夜行性の獣)』。これは、スーザンのことを指しているのではないか、小説の主人公は妻自身であるということなのではないか、と。

映画の中でスーザンは、小説のシーンの主人公に元夫のエドワードを投影していましたが、それはスーザンが勝手にそうしていただけであって、命をかけて家族の復讐を果たす主人公は、エドワードである必然性はないわけですよね。

元妻スーザンはアーティストになる自分の夢を諦め、夫は浮気し、仕事でも、自身が買い付けてきたアート作品のことも忘れてしまっているほど空虚な生活を送っていました。

そんなスーザンに、(不眠症によって夜の動物になっている)タイトルの小説で最後まで諦めないことの大切さを伝え、再会の場にも行かないことでショックを与えて、今のままではだめだということを伝えたかったのではないかと。

映画のラストはスーザンの瞳のアップになりますが、何かに気づいたようにも見えるようにしていることから、復讐劇=バッドエンドではなく、希望が感じられるハッピーエンドにも解釈できる終わり方になっているのでは、と思いました。

正解はない映画だと思いますが、皆さんの解釈はいかがでしょうか。

ということで、良いGWを!
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