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ベテランのtanakaのレビュー・感想・評価

ベテラン(2015年製作の映画)
3.8
エクストリームジョブに続き、韓国の刑事物繋がりで鑑賞。前評判通りの痛快アクションエンタメ作品でした。

ここでは、何故この作品が韓国で大ヒットしたのかについて、思案を記録したいと思います。

突然ですが、ハリウッドの刑事物やヒーロー物で描かれる悪と言うと、何を連想されますか?麻薬カルテル?テロリスト?宇宙からの侵略者?悪の科学者?ビッグバジェット映画で描かれる「悪」と言えば、私の拙い経験から連想出来るのはこんな物です😅😅😅
一方、韓国の現実社会で庶民を苦しめてるものは何か。それは、庶民から徹底的に搾取して懐を潤わせている存在です。韓国は1997年の通貨危機により、IMFから救済を受けました。その際の条件が、金融・貿易業の門戸を外資に開放する事と、非正規雇用促進による資本家優遇措置。これにより、急速に韓国は格差社会が進みました。韓国市民にとっての「悪」とは搾取を前提とした社会構造であると、共通認識されてるのでしょう。それは、パラサイトが大ヒットした事からも分かりますよね。
だから、本作で描かれるような、未払いの賃金を求めただけで虐げられた1市民の為に立ち上がる刑事は、韓国市民にとって紛れも無いヒーローで、広く支持を集めたのだと思います。

余談ですが、本作中の所々にバットマンのアイコンが登場します。あれは経営のトップでありながら、犯罪の根本原因である貧困などの社会悪を正そうとせず、自己満足で犯罪と闘うブルース・ウェインを揶揄した物だと捉えています。主人公のように、1市民に寄り添い巨悪に立ち向かうのが本当のヒーローだと言う、そんなメッセージだと、私は思うのです。

一方、日本はどうでしょう?そもそも、こう言った作品が最近作られた記憶が無いし、仮に作られたとしても恐らくウケそうにないと思うのです。何故なら、日本人の大半が、困窮した市民を自己責任と断じる国民性だから。本作の被害者に感情移入する人はあまり居ないんじゃないでしょうか。また、日本人は格差社会についても寛容です。非正規雇用を推進し、今ではパソナの会長となった竹中平蔵が堂々と政策に絡むし、政府も国民もそれを許してる。搾取を前提とした社会構造を受け入れてるのです(あるいは受け入れてる事にすら気付いていないかもしれませんが)。従って、本作のストーリーへの没入もし辛い事でしょう。

色々書きましたが、「本作のような映画がエンタメ作品として大ヒットする、韓国の国民性に嫉妬した」と言う感想を以て、この記録を締めたいと思います。
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