MasaichiYaguchi

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
米ソ冷戦時代、赤狩りの嵐吹き荒れるハリウッドを舞台に、脚本家として稀有な才能を持つダルトン・トランボのドラマチックな半生を、彼の脚本による名作映画を織り交ぜながら描いていく。
自由の国と呼ばれるアメリカだが、社会がある一つの色に染まりだすと一気にそれが広がり、本作で描かれたような異端の意見を持つ人々を吊し上げて断罪するという、中世の“魔女狩り”のような様相を呈していく。
そこには思想や表現の自由はなく、特に時代や社会を反映させる映画業界は、「ヘイズ・コード」という倫理綱領が厳格化されたり、“疑わしき者”は干して排除してしまったりする。
そんな時代の空気、ハリウッドの状況にトランボは時に過激に、時に皮肉を込めて、自由を求めて抗っていく。
そんな彼を反共運動がエスカレートした社会やハリウッドが放っておく訳もなく、遂には塀の中に追い遣ってしまう。
そのような状況でも彼は諦めないで信念を貫こうとする。
「ペンは剣よりも強し」
この言葉のようにトランボはペンならぬタイプライターで闘い続ける。
彼の闘い方は、自分を排除した社会やハリウッドに真っ向から挑むのではなく、脚本家として仕事を全うするということ。
私の好きな映画の1本に「ローマの休日」があるが、この作品を含め「黒い牡牛」、「スパルタカス」等にトランボに関する驚きのエピソードがあったことを本作で初めて知った。
このトランボを演じ、第88回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたブライアン・クラストンが、その人間味、信念を貫こうとする男の哀愁を表現していて共感する。
そして本作は、ハリウッドの黄金時代にして暗黒時代を生き抜いた一人の男を描いた社会派作品であると同時に、トランボと家族の強い絆を描いた映画でもある。
社会や映画業界とせめぎ合い、“仕事の鬼”となったトランボと家族との間に溝が出来た時、妻のクレオが発した言葉が印象的だ。
時に反発しながらも、彼を信じ、支えようとした家族の温もりがスクリーンから伝わってきて心の琴線に触れる。
表現の自由が規制されていく傾向にある昨今、この作品は過去の出来事を描いたものだと片付けられないような気がする。