めしいらず

帰ってきたヒトラーのめしいらずのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
3.9
現代にタイムスリップして現れたのは何と本物のヒトラー。最初はコメディのように始まったこの物語であるけれど、進んでいくうちに恐ろしげな気配が少しずつ濃くなっていって…。民衆は当然のように彼をモノマネ芸人のように思っているから、帰ってきたヒトラーを面白がって囃したり、不謹慎だと憤ったり。彼が真剣に話している言葉はコメディアンの芸だと都合よく捉えられ、SNSや動画サイトを通して拡散され、爆発的な注目を浴びていく。そして初めてテレビ演説する場面の凄まじさ。史実にあった通りのあの無言のやり口。より効果を高める為に演説の天才が施した緻密な計算。ひと度話し始めれば恐ろしほどの求心力を発揮し、民はあの時と同じようにたちまちヒトラーに魅了されてしまうのだ。明晰な彼は時代に見合った形の人心掌握の術をすぐに理解し粛々と実践していく。目的達成の為の手段としてなら道化役だって演じてみせる。一度は失脚しかけたけれど、ネオナチに襲撃されたことが国民感情をヒトラーの味方につける追い風ともなり、彼は着実に野望への地歩を固めていくのだ。ヒトラーは言う。「私は人々の一部なのだ」と。民衆の内には時代を問わず政治への不信と不満があり、強い言葉で未来を照らし、行動力で時代を切り拓いてくれるヒーローの登場を待ちわびる部分が確実にあるのだ。そして彼はそんな民の心情をたちまち掬い上げ、巧みに誘導し利用する。まだ何も起きていない。それなのにヒタヒタと這い上がってくるよう怖気を感じさせるラストったらない。
予想していたお話とは全然違っていた。これはコメディの体裁をとった恐怖映画だった。ドイツのタブーにドイツ人が切り込んだ批判覚悟の表現姿勢に脱帽。傑作!
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