akrutm

シアター・プノンペンのakrutmのレビュー・感想・評価

シアター・プノンペン(2014年製作の映画)
3.7
映画製作をテーマとして、70年代のポル・ポト政権の暗い過去に今なお苦しむ世代と現在の若者世代の融合を描いた、ソト・クォーリーカー監督のドラマ映画。

すでに営業していない映画館の主が若い頃に撮影した恋愛映画の最後の1巻が紛失していて、偶然にそのことを知った主人公の女性ソポンは失われた部分を新しく作ろうと画策するのが前半のストーリーである。これを見る限りでは、邦題から受ける印象もあって、『ニュー・シネマ・パラダイス』のような映画愛をテーマにした作品のように思える。もちろん映画愛がひとつのテーマであることは確かなのだが、本映画はそれだけではない。その映画にまつわるエピソードを通じて、ソポンの両親や映画館主たちの過去が明らかになっていくというサスペンス風の味わいとともに、今なおカンボジアの人々に暗い影を落としているポル・ポト時代のクメール・ルージュが浮かびあがってくるのである。

本映画の内容や主人公ソポンの人物造型には、ソト・クォーリーカー監督自身の経験反映されていて、監督が2歳のときに父親がクメール・ルージュの大虐殺の犠牲になっているそうである。また、映画の最後に出てくるように、ポル・ポト政権時には映画のほとんどは焼かれ、映画監督や俳優たちは粛清されている。そういう作品や映画人へのオマージュでもあると言えるだろう。さらに、女性監督が若い女性を主人公とすることで、現在でも色濃く残っている男尊女卑的な価値観への反抗という意味合いもあるだろう。

そういう意味で色々と考えさせられる映画であるが、娯楽作品としても十分に楽しむことができる。ただし、いろいろなエピソードを詰め込み過ぎてしまったきらいがあり、後半の展開がやや消化不良に陥った感もある。ここら辺をもう少しスマートにまとめられれば、間違いなく名作になったであろう。
akrutm

akrutm