あんがすざろっく

メッセージのあんがすざろっくのネタバレレビュー・内容・結末

メッセージ(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

これは、映画を通した体験である。
正直言わせてもらえば、エンターテイメントとしての娯楽は、成立していない。
決して楽しい作品ではないし、宇宙人とのコンタクト映画とは言え、映像はどちらかと言えば、地味である。
新しいエイリアン像を描こうとはしていないのだ。
最後のピースが徐々にはまっていく過程も、派手な演出を見せない。
静かな、さざ波という表現が相応しいだろう、そんな空気が作品を通っている。
時間軸を崩す、という手法は、映画では有効的に使われる表現方法である。
本作も実はそれを使っているのだが(冒頭で時の流れの件があるにも関わらず)、作品を観ている間は、すっかりそれを忘れてしまう。
映画は主人公ルイーズの内面に焦点が当てられる。
時折挟まれる、ルイーズのフラッシュバック。
観客はルイーズの辛い過去を目にしているように感じる。
そして、その度に彼女を襲う疑問。
最初のうちこそ、それが彼女が締め出したい記憶であると想像するのだが、段々ルイーズは何が何だか分からなくなってきているのを、観客は理解する。何故、こんな記憶を思い出してしまうのか、ではなく、一体これは何なのだろう、という、未知への疑問。
そして映画は、それが「過去の記憶」ではなかったことを明らかにする。
物語の勝利である。

これは宇宙人とのコンタクトの物語ではなく、ルイーズの物語だ。
映画のラスト、ルイーズだけが知る真実。
ルイーズは、子供や自分達夫婦に待ち受ける運命を知りながら、それでも、未来を選ぶ。
そこには、今この時を、今大事にしたい思いと、一生懸命、真摯に向き合い、一つ一つの小さな幸せも見逃しはしない、という、筆舌に尽くしがたい愛情と覚悟を感じるのである。
エイミー・アダムスを初めて素晴らしい女優だと思ったし、少し苦手だったジェレミー・レナーも、新たな魅力を見せてくれる。
一度観ただけでは、恐らくこの作品の魅力は全て理解できない。だから、僕はまだ本作を心底好きにはなっていないのだと思う。
しかし、鑑賞後ずっとひきづる、というより、心がずっと映画に囚われて、反芻せずにはいられないのは、しっかり作品に心を奪われている証拠だろう。

作品を見終えて、様々なことを考えた。
そして、一つの大きな疑問が頭をもたげた。
地上に降り立った宇宙船は、ある事件をきっかけに、一度上空に浮上する。
ヘプタポッドが先を見通せていたならば、何故事件を回避しなかったのか。
また、ルイーズを通して事件を食い止めることはできなかったのか。
恐らくヘプタポッドは、どちらも選択できたに違いない。
否、ヘプタポッドはルイーズとイアンを、寸前に助けているのだから、回避することは出来たはずなのだ。
では、何故事件を回避しなかったか。
僕はこう解釈した。

事件を起こしたのは人間で、ヘプタポッドは自分の命を守る為に、歴史を書き換えてはいけないと、人間の行為に干渉してはいけないのだ、と。だからヘプタポッドも「死は通過点」とルイーズに語っている。ここで人間に戦争を仕掛けてしまえば、3000年後、ヘプタポッドは人間に助けてもらえないかも知れないのだ。
同時に、ごく一部の人間が起こした愚かな(恐怖と狂気に駆られた)行為を、敢えてそのまま人類に知らせなければならない、と考えたのかも知れない。寛容さと忍耐と、残酷さを備えたのが、異星人ヘプタポッドではなかったか。
まだまだ色々な多面的な解釈の仕方を秘めている作品。
この奥行きと広がりは、どこまで続いているのだろう。
3000年後、人類とヘプタポッドの間に再びどんなコンタクトがあるのか、そんな想いを馳せるのも一考である。
あんがすざろっく

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