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ぼくのエリ 200歳の少女のRenのレビュー・感想・評価

ぼくのエリ 200歳の少女(2008年製作の映画)
5.0
完璧な映画。オールタイムベスト級だった。タイトルと某シーンの改変のみが0点(つまり日本の配給会社がダメすぎる)だが、その他は非の打ち所が無さすぎる。設定の魅力、撮影の魅力、純愛の話であり危険な共依存の話である魅力、俳優の魅力について書けるだけ書く。

タイトルとあらすじで分かる通り「愛したあなたはヴァンパイアでした」映画であるが、意外にも、淡々と、現実に即した地に足の付いた物語だ。....が、そんなことは無く、やはりヴァンパイア周辺はファンタジーでありホラーで、そういうドキッとする描写が来る度に画面が締まる。
人間同士の「リアル」を描いた恋愛映画では絶対に見られないものを片っ端から存分に見せてくれつつも、「なんかおかしなもの撮ってますか?」と言わんばかりの澄まし顔で進行する。このバランス感覚に惚れ惚れする。

息も凍るような雪景色と鮮血。名作の条件を満たしている。舞台設定から勝っている。
こちらが読み解きに行かないといけないような難解さを想像する方もいるかもしれないが、前提として、映像の一枚画の作り方が誰が見ても良いと思うものばかりだ。綺麗・怖い・凄いといった直感的な感動の作り方が素晴らしい。撮影が凄い。
枚挙にいとまがないけど、「ある人物を映している背後の壁で何かが動く」「ドアが閉まり暗闇になった瞬間、一瞬目が光る」辺りが特に好き。予兆無く非現実なものが映り込むゾワっと感。その文脈はホラーに則っている。打撲と死体発見のカットバックなどサスペンスフルな煽りも上手い。

いじめられっ子とヴァンパイア。共に世界から拒絶されながら生きる者が次第に惹かれ合うこと自体は良くある。だが今作には、惹かれ合うべくして惹かれあった運命論的観点での説得力、お互いにはお互いしかいないという切迫感の説得力がある。
オスカーがいじられていることの理由が無い。父親の元へ行っても友人の来宅に邪魔される。徹底して孤独を強いられている。
自身の境遇にハンデを背負いながらも、保護者まで失ったエリ。支えるしか/支えられるしかない、に至るまでの説明のナチュラルさに無駄が無い。なんで2人は一緒にいるんだろう?と思わせる隙すら無い。それくらい必然の結果だ。

2人の子どもの超純愛と捉える人も多そうだけど、あの後オスカーがあの人と同じ運命を辿るかもしれないし、いつまでも愛が途絶えないと言い切れない。恋愛の話かは知らんが間違い無く共依存の話であって、少なくとも「映画の上映時間内の話では」孤独な2人が共依存者を見つけ、そんな相手と共に過ごすことができ、そこにある問題は一旦解決したことが大切なのだと思う。

そしてこの映画の成功には、二人の俳優の貢献がひたすらに大きい。人間のオスカー役カーレ・ヘーデブラントが消えてしまいそうな儚さで、ヴァンパイアのエリ役リーナ・レアンデションに憧れと芯の強さを感じるのが好き。二人をずっと見ていたい。

最後に、観た誰もが困惑するあのぼかしのシーン。「属性をネタバレ扱いしているのが不誠実だ」という意見もありそうでそれ自体には賛同する。が、今作に関しては「エリ自身が隠したがっていた」「が、オスカーに "自分はマイノリティである" こと自体は伝えようとしていた」「ネタバレ的な種明かしではなく、オスカーがたまたま知ってしまった真実である」ことを加味すると、一概にそうは言えないと思った。

こんな映画皆んな好きでしょー!と思って色々な人のレビュー読んだらそれなりに否寄りの意見も見てそりゃそうかと目が覚めた。思ったよりグロくてホラーな演出など間口は狭いかもしれないけど、全力で推す。

その他、
○ 本編観ただけでは「200歳」なんて分からなかったぞ....?タイトルに知らん情報を付け足すなよ?
○ みんな言ってるけど、あの最重要カットにぼかしをかけるなよ....?あれとタイトルで作品を捻じ曲げるな。馬鹿が。
○「僕の一番の理解者で/それでいて常にライバル/でも時には最愛の恋人みたいな」「僕の一番の被害者で/お互いが常にアリバイ/でも僕らは最高の共犯者」──『SPECIALS』BIGMAMA
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