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葛城事件のhzkのネタバレレビュー・内容・結末

葛城事件(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

うおぉぉ、眩暈がするほど陰鬱…
素面では最後まで観ていられないので、平日の昼間から酒を片手に観た次第でございます。
光なんて一切遮断されたような家族の話。
画面も暗い。やたら出てくる食べ物もマズそう。
威圧的で傲慢な父親、やつれて弱々しいけどネジの外れたような母、一番マトモに見えるけど気が小さくて自我がない挙句リストラにあう長男、引きこもりでついには殺人を犯し死刑囚となる次男。そしてその次男と獄中結婚する、死刑反対派の赤の他人の女。
暗くてジメジメなのに所々笑っちゃうシーンがあってなんだかとっても生々しい。
寂れたスナックでのカラオケとか、行きつけの中華屋で麻婆豆腐が辛いと難癖つける三浦友和が最高!
いつからこんな辛くなったんだ、そうなら先に説明しろ、こんなん食べたら他のモンの味わかんねぇよ、オーナー出せ、葛城さんって言えばわかるから。
しかも長男の結婚記念日で相手の両親も同席の場で!最悪!(笑)
各キャラの人物描写が凄く良かった。
新井浩文って俳優としては本当に素晴らしい。何を演じても魅入ってしまう。
この役も、リストラを隠して公園でクロスワードやったり再就職の面接で汗だくで名前も言えなくなったりして、あぁ〜可哀想〜😭と感情移入。
そしてそのまま死んでビックリした…
観る前はてっきり殺人犯役だと思ってたのに!
三浦友和が、長男は子供の頃からいいって言うまで漢字の書取りをずっと続けるような真面目で良い子だった的なセリフを言ってたけど、それは良い子じゃなくて親の顔色を伺って怯えながら生活してたってことじゃん…と切なくなる。
次男もなぁ…母と兄と最後の晩餐の話してるとこなんかは自然だったのに。
引きこもって声優になるとか一発逆転するとか言い出すフラフラした感じが凄くリアル。
父親に否定され続け、嫌悪しているはずなのに「日本は〜」とか語り出しちゃう思想や口調が父に似ている皮肉。
その次男と獄中結婚した女がまたウッザイんだよね〜。人間に絶望したくない!死刑は絶望そのもの!私は彼を愛す!とか言う空回った謎の正義感。おまえ如きが人間一人を変えられると思うなよ。
そしてこの親父。「俺が何をした」っつってるけど、いやいや全ての元凶はお前や。
とは言えこの男も、偉そうに振る舞う裏には親の店を継いだだけで自らが為したことは何もないというコンプレックスの表れが支配的な態度に出てしまってるのかもしれないな。でも家庭を守るってそういうことじゃないぞ。こんな親父いやだ。
引きこもりが起こした事件はつい最近でも何件か覚えがある。他人を巻き込まずに1人で死ね、というのは正論だけど、そこに至るまでの背景を思い浮かべる想像力は持っていたい。引き金になるハッキリしたキッカケというより、積み重なってきた日々の苦悩があったんだと思う。
だからって擁護する気はないし同意もしない。困難から這い上がって暴れ出しそうな感情を抑えて踏みとどまって、そこから一発逆転する人だっているし、関係ない他人を巻き込むなんて、ましてや死刑になりたいからなんて理由はフザケんなクソ野郎。
誰でもよかった言いながら女子供を狙ったりするしね。誰でもいいならロック様みたいな人に攻撃してみろってんだ。
やったことは悪い。でもそういう人間を作り出すのは他人だったりもするから、想像力を持って人に優しく生きようと思うのです。たった1人の優しい人に救われるケースもあるからね。
みんながもうちょっとずつだけでも優しくなれば世の中も優しくなるのに、と信じたい。綺麗事くさいけど。
ラスト、自殺失敗で部屋に戻りパスタを啜るシーン…なんという後味!スリング・ブレイドのチキンのシーン思い出した。
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