えんさん

種まく旅人~夢のつぎ木~のえんさんのレビュー・感想・評価

種まく旅人~夢のつぎ木~(2015年製作の映画)
2.5
岡山県赤磐市。9年前に東京に飛び出したものの、夢を諦め帰郷した27歳の片岡彩音は、亡き兄の遺志を継いで新種の桃栽培に挑戦しながら、市役所でも精を出す日々を送っていた。そんなある日、東京から農林水産省の若き官僚・木村治がやって来る。木村自身も入省したときの想いを忘れ、毎日を惰性的に過ごしていた。。第1次産業に携わる人々の暮らしを、その土地の風土と共に描く「種まく旅人」シリーズ第3弾。監督は「夕凪の街 桜の国」「東京難民」の佐々部清。

今、第1次産業というと、高齢化が進んでいて衰退していく産業なのかなという印象が強いかもしれませんが、人類の歴史5000年の中で、ほんの100年前までの数千年は第1次産業というベースに社会が成り立っていたのです。日本を見ても、江戸時代から明治の初期までは何千石という石高で資産を表現していた。中世の世までは、どれくらいの石高、いわゆる米の生産量を保有しているかが経済の基本だったわけです。経済を基礎に、社会も、運輸などの交通の仕組みも、全て1次産業の形に倣う形で発展してきた。2次産業の大きな成長が高度経済成長期とすると、サービス産業を中心とした現在の世の中は、ほんの十何年の歴史でしかないのです。こうした産業の在り方に対して、人の営みやモノの考え方も変わってくる。翻って、本作では第1次産業をベースにしてますが、様々な分野での人と産業との営みを描く挑戦も、映画界上げてして欲しいなと思います。

そんな本作「種まく旅人」シリーズでは、全国の代表産地を取り上げ、そこでの人の営みと中央官庁である農水省の役人との交流が話の軸になっています。本作も、その過去のシリーズ例に倣う形になっていますが、お話自体の面白さという意味ではシリーズ毎に少しづつ低下しているかなという感は正直否めません。ただ、本作でそれを補っているのが、中央の役人・木村を演じた斉藤工の巧みな演技だと思います。若さがあるが故に、どこか柔軟に役所仕事をこなしてしまっていた東京での生活に対し、岡山での彼の無邪気なまでに農作物を追う姿は、役人らしからぬというか、第1作目での”大宮金次郎”並みの面白さの溢れるキャラクター像になっていると思います。それに対する岡山のメンバーがいささか小粒感があるのが残念ではありますが、それでも各役者がよいアンサンブルを出して、ドラマとしてよい雰囲気を出しているのが好印象。それに、本作では初めて過去のシリーズ作との橋渡しを見せるところがあるので、本シリーズを観続けている人(なかなかいないとは思いますが、、)は必見です(笑)。

個人的には同じフレームで、厚生省と病院(もしくは介護施設)との作品も作って欲しいなと思ったりします。「チーム・バチスタ〜」とかそれに近いけど、あれはエンタメ作品ですしね。。