螢

ガタカの螢のレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
3.7
生まれ落ちたその瞬間に定められた運命に苦しみ、抗おうとした人々の物語。
ラストの静けさと切なさには胸が締め付けられます。
鑑賞中はむしろ落ち着いていたのに、鑑賞後に色々なシーンを思い出していたら一人でかなり泣いてしまいました。鑑賞中は思うことが多すぎて考えがまとまらなくて、却って気が張っていたのかもしれません。

人工授精で優秀な遺伝子を掛け合わせて「適正者」と呼ばれる子どもをつくることが常識となった近未来の世界。自然妊娠の結果産まれたヴィンセントは、出生時の遺伝子検査の結果「不適正者」の烙印を押されてしまう。
この世界では「不適正者」は一生底辺でいるしかない存在。前時代の肌の色や学歴に取って変わっていた不適正者への差別と偏見は、国の公認を得ている分、却って根強く、覆すことは難しかった。
そんな彼の夢は適正者しかなることが許されていない宇宙飛行士になること。しかしながら、遺伝子検査をされてしまえば不適正者の彼は落とされるしかなかった。

現実の厳しさにやさぐれていたある日、不慮の事故で半身不随となって車椅子生活を送る「適正者」の青年ジェロームの存在を知る。ヴィンセントは彼と契約して彼になりすますことで遺伝子検査をパスして念願だった宇宙局「ガタカ」の職員となる。
順調に出世し、宇宙飛行士へと近づいていたヴィンセント。
ただ、ガタカでは、毎日、身分証がわりに適正/不適正の検査がある。ジェロームの血液や尿を利用してそれを乗り切ってきたヴィンセントだけど、ある事件をきっかけに不適正者であることがばれそうになって…。

人生を導くのは、先天的に生まれ持った有能な遺伝子か、劣るとされる遺伝子でも不断の努力の結果として覆すことができるのか。
出生時に決められてしまうあまりに不確かな「可能性」とはそもそも何か。

正直、この主題を取り巻く核心部は、ヴィンセントの努力含めてもう少し詳しく描いてくれたらもっと奥行きが出たのにな、と思わずにはいられません。わりと序盤であっさりヴィンセントはガタカに勤めて、しかものし上がっていく過程は一切描かれないので。

これだけの素材を用意すればいくらでも深く突き詰めて個性を出せるはずのテーマ性や心理描写ではなく、主人公がわかりやすく追い詰められるハラハラ展開のほうに時間を割いて重きを置いている点は、(偏見と意地悪な視点があるかもしれないけれど)、娯楽性とスピード感を何より重視するアメリカ映画らしいつくりだなと思いました。

でも、「不正」をしながらも掴みたいものを掴んでひたすらもがく不適正者のヴィンセントと、適正者でありながら人生を失った感のあるジェロームの姿を観ていると色々なことを思わずにはいられないのです。
ヴィンセントの人生や欲望は明確に描かれているのに、ジェロームのそれはほとんど語られない分、なおのこと、その対比性には本当に想像がたくましくなってしまう。

不適正者とは違う適正者なりの孤独と重圧に苦しんだ過去をうっすらと垣間見せていたジェロームが選んだ最期には、視覚的にはっきり見せられるものと、明かされない感情が相まって、とても色々なことを思います。

とはいえ、作品テーマを無視するようで申し訳ないのですが、もし万が一現実の未来世界において、技術と意識の変化ゆえに「人工授精生まれの適正者」しかいなくなったとしても、人々の性質の違いも能力の違いもゼロになるわけではないし、それ以上に人間のエゴや優越感や残酷さなんてものはそれ以上になくなるわけはないので、「従来の適正者」から「新たな不適正者が設定される」だけなんだろうけど…と観終わってなによりも真っ先に思った私はやはり性格が悪いのかもしれません。
螢