足拭き猫

タルロの足拭き猫のレビュー・感想・評価

タルロ(2015年製作の映画)
3.9
三つ編みで髪の毛はぼさぼさのタルロ。どの羊が何匹いるか正確に覚えており毛沢東語録をすらすらと読みあげ警察官所長からも一目置かれる。恋歌しか知らないけど歌声は朗々としていて聞いてほれぼれする。だれも彼を本名では呼んでくれず子供の頃から「みつあみ」として知られている。ボサボサ三つ編み頭は彼のアイデンティティ。何も不足しているようには見えないが、ある日、入った美容院の美しい娘と知り合ったことで徐々に即物的なものに染まり、自分を見失い破滅に向かっていく。

そもそも娘は素朴なタルロに憧れたのではないか。なのになぜ自分が彼を変えてしまうことに気付かなったのか。タルロのことよりも自分が満足すればよかったという身勝手さ。でもそれが人間だ。

写真屋でラサの寺院、天安門広場、ニューヨークと行ったことさえない場所の変な画像をバックに硬直した顔の夫婦たち、あげくのはてにはいまいち決まらないからとアメリカ人の服装に着替えさせられ、自分たちが大事に思っている羊さえも降ろせと言われる。タルロも髪を始めとして大切な子羊を入れたカバン、帽子、イヤリングを外されてIDカード用の写真を撮られる。それは果たして彼自身なのか別人物なのか、警察もこれじゃあんただと分からないから取り直せという皮肉。

反射して映り込んでいるカットが数回出てきて、タルロと美容師のやり取りも鏡を通して見せられるが、それは偽りの世界だと暗示しているようだった。