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マンソン・ファミリーの休暇のblacknessfallのレビュー・感想・評価

3.4
暖かい家庭を持ち仕事も順調な人生を送る弟と寅さん的なライフスタイルの自由人の兄、生き方も価値観も正反対の兄弟が一緒に旅を通じてお互いの理解を深めていくハートフルなロードムービー。

家族や兄弟、夫婦が形態は色々あるけど旅を通して絆を確かめ合ったり、自分を省みて再生するロードムービー、アメリカは傑作揃いだよね。
"リトル・ミス・サンシャイン""私に会うまでの16000キロ" バイオレンスなホラーだけど"マーダー・ライド・ショー2"も観ようによっては家族ものロードムービーと言える笑

これはそんな傑作達と比べるとかなり小ぢんまりとして地味、生き方、価値観の違う兄弟が旅を通して心を確かめ合い溝を埋め絆な深めていく展開も定番で無難。
特筆すべきことは1つだけ、寅さん的自由人の兄が熱狂的なチャールズ・マンソンの信奉者ってことだけ。

マンソン・マニアの兄の意向で旅もマンソン所縁の土地をめぐる。
マンソン・ファミリーが拠点にしてたスパーン・ランチやシャロン・テート殺人事件の現場とか。マニアには堪らない聖地巡礼の旅😂
常識人の弟がそんな旅の計画にドン引きしたり、シャロン・テートの殺人現場で記念撮影しようとして地元の人達の顰蹙を買ったり、不謹慎だけど笑えるシーンが続く。

まあ、要するにマンソン・マニアのお兄さんが一般的な目線から見るとかなり滑稽でヤバくておもしろいってことなんだよね。
マンソンTシャツを着て旅のお供にマンソンの事件を克明に記した著書「ヘルタースケルター」を持参、カーステではマンソンのアルバム「lie」を流す笑
かなりイカれた変人ぶりをファニーに撮ってて不気味ながらも笑える。

自分としては笑えるだけじゃなく同時に軽く戦慄したよね、マンソンとか興味ない人達からは、こんなあぶない変人に見られるのかと笑
実は自分もけっこうなマンソン・マニアで「ヘルタースケルター」は持ってないけど、「ファミリー」というエド・サンダースってライターが書いたマンソン・ファミリーの証言集、マンソンの獄中インタビューを本にした「悪魔の告白」を持ってるし、アルバム「lie」も買ったし、マンソンTシャツは三枚も所持している。
そして、このお兄さんと同様完全な社会不適合者だぜ😬💨

興味ない人からすると何故こんなシリアルキラーなんかに夢中になるのか不思議だと思うんだけど、この映画がいいのはそこにちゃんと答えてるとこ、それを提示するこもとで兄をただの変人ではないと分からせるようにしてる。

シリアルキラーは不可解で猟奇的な欲望やサディスティックなフェテシズムや歪んだ自意識を持った者がほとんどで、その常軌を逸した心理の不思議に惹き付けられる人が多いと思う。
けどマンソンはそういうタイプじゃない。他のシリアルキラーと違ってアブノーマルさとか、それに起因するコミュ障的なとこもない。
むしろコミュニケーション力に長け人の心のヒダを掬うのが巧み。そして何より社会の矛盾や不条理に的確な批判性があり、社会から拒絶された人達に癒しと自己肯定感を与える魅力がある。
実際、「マンソンが初めて自分を受入れ理解してくれた」と告白するマンソン・ファミリーのメンバーは多い。

マンソン本人はそんな人達の気持ちを救おうとか代弁しようななんて気は微塵も無かったんだろうけど、社会やコミュニティから弾かれた人達はマンソンに救いや希望を見出だし、マンソンに魅せられていったのだと思う。

うまく生きられなかったり、社会にも自分にも絶望してる人の周りに、その人を理解し肯定してくれる存在がマンソンだけだとう環境は生産性で人の価値を選別する経済至上主義の世界ではなくならない。
そうであるとしたら、マンソンに救いを見出だした人達だけが愚かで滑稽な存在だと言えるのか?多くの生きづらい人達の尊厳を奪うシステムの社会に適応し人生を謳歌する人間が呵責なく正しいと言えるのか?

「お前らが打ち捨てて見向きもしなかった者達がおれの下に集まった」チャールズ・マンソンの裁判での証言。
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