先に同じ監督の『赤と白』と『シロッコ』を見ていたから、どう観るべき映画なのかある程度想定しながら鑑賞できたが、全く事前情報がなかったら困惑するばかりだったろうと思う。
異様に複雑な長回しと縦横無尽に左右へ動く登場人物たちとカメラ。特に本作はそのスタイルが推し進められて、クローズアップも多用されて目まぐるしい。正直やり過ぎなんじゃないかとすら感じた。
ひとつのショットで中心となる出来事や登場人物が存在せず、すべて始まりも終わりもない狂騒がただ通り過ぎていく。
終始ひらけた平原で撮られているため、ロケーションの効果をほぼ持たず相対的な位置関係としてしか空間が示されない。
また、時間についてもショットの間でどれだけ隔たりがあるのかぼかしたような撮り方がされている。
だから見る人が見れば、この作品にしかない時空間が立ち上がってくるように思われるのかもしれないが、自分は画面を追うのに必死だったので、そこまでの感銘を受けることはできなかった。
ロングショットで特に顕著だが、特有のスタイルのために画が弛緩して見える場面がいくらかあり、そこは残念だった。