このレビューはネタバレを含みます
【よぅ撮ったちゃ】
原作未読。
日本地図完成のため、劔岳登頂を目指す。
地元の山岳信仰では、劔岳は死の山とされ、登頂は到底無理と恐れられていたよう。
目的の測量以前に、下見ですら一苦労。測量地点に到達するまでが困難極まりなく、主人公柴崎は「なぜ登るのか」と疑問を抱き始めます。
この「何のために」という問いに、本作は幾つもの答えを用意しました。
① 挑戦そのものに意義があると考えるから
② 困難を乗り越え、登頂の喜びと絶景の感動を味わいたいから
③ とにかく地図のために「悔いなくやり遂げることが大切」だから
④ 前人未到の業績という名誉が欲しいから
⑤ 陸軍と軍事のため
⑥ 山岳信仰の修行のため
動機として結び付けられるのは、②が案内人の息子、③が柴崎個人、陸軍測量部が④と⑤、山岳部が①と④です。特にクローズアップされるのは、西洋の登山グッズで登頂を目指す山岳部との競争、つまり④ですが、一番感動するはずの登頂の瞬間を描いていませんでした。これには史実のオチが関係しているようで、
「人がどう評価しようとも、何をしたかではなく、何のためにそれをしたかが大事です」
と、柴崎宛ての手紙にしたためられた文言で締め括られていました。
他方、「なぜ地図を作るのか」は、比較的シンプルな答えでした。これも結局⑤ですが、その先には、自分の居場所を指し示すことができる新たな伝達手段の誕生と、永遠に人々の自己探求の一助になる筈であるという信念がありました。
映画向けに脚色したそうですが、山に特別な思い入れのない自分には、ドラマで軽く味付けした National Geographic のように見えてしまいました。「厳しさの中にしかない」美しい自然を引き立たせるために、Vivaldiの「四季」などが採用されたのでしょうが、このクラシックのサントラが、逆に劔岳絶景ドキュメンタリー感を増大させたと思いました。
ただ、黙々と真面目に任務を遂行する薄味キャラの柴崎が、観ている内に、地図完成に貢献した、名もなき多くの挑戦者達の象徴なのだろうと思えてきました。
ドラマ部分は惜しいですが、絶景と雷鳥は一見の価値がある作品でした。