えんさん

恋妻家宮本のえんさんのレビュー・感想・評価

恋妻家宮本(2017年製作の映画)
4.0
子どもが結婚・独立し、ふたりきりとなった中年夫婦の宮本夫妻。学生時代に合コンで出会った2人は、卒業と同時に美代子の妊娠が発覚し、できちゃった婚をして結ばれた。以来25年は息子を育てるためだけに努めてきたが、夫婦となって、初めてふたりきりで長く伴にいる状況になったのだ。そんな生活になった早々のある日、夫は妻が隠し持っていた離婚届を見つけてしまう。。。TVドラマ『家政婦のミタ』などの脚本家・遊川和彦による監督デビュー作。重松清の家族小説『ファミレス』を原作に、阿部寛と天海祐希のW主演で映画化した作品。

予告編を観たときは何だか軽い感じのコメディで、人情とか、泣きが中心になる重松清・原作作品とは思えなかったのですが、そこは「家政婦のミタ」など一筋縄では感動させない遊川監督の作品。素っ頓狂なコメディ調でクスクスさせながらも、いろいろな方法で感動のツボをついてくる超変化球的な作品でした。まず、ハマっているのが主演の宮本夫妻を演じた阿部寛と、天海祐希の2人。見た目も、性格的にも非常に芯の強そうな感じがするのですが、阿部寛のほうはその見かけとは真逆な優柔不断さに支配されている宮本陽平という人物像を見事な好対照ぶりに演じているし、天海祐希は逆にしっかりしてそうな見た目のキャラクター像そのままながら、どこか長年の子育て&主婦業を経て、どこかいい形の老けさ(弱さ)をも抱え込むキャラクターを好演しています。お話自体は夫の陽平目線で進んでいきますが、ラストのオチの付け方など、それぞれのキャラクター像が見事に話に結実しているといってもよいと思います。

それに加えていいのが、彼ら夫婦をの周りを囲うキャラクターたちでしょう。夫婦の若い時を演じる工藤阿須加、早見あかりの2人もいいのですが、それよりも教師である陽平のクラスの生徒を演じた井上役の浦上晟周と、菊地原役の紺野彩夏が実に良かった。彼らのエピソードは形も内容も違っているのですが、明るく振る舞いながらも気弱な井上は陽平に、クールながらも心配症な菊地原は美代子のキャラクターを、まさに投影したような感じになっているのです。最初は優柔不断で、生徒にも、頑固な井上の祖母にもタジタジになってしまう陽平が、その弱さの中にも魅せる芯の強さ。夫婦は見かけでは分からないとは言われますが、ダメダメな陽平に惹かれた美代子の目線がそこにあるようにも感じられるのです。

こう書きながら、実は本作は原作があるものの、原作とは全く違うお話の構成になっているんだとか。原作は未読ですが、重松作品は好きなので、是非時間を作って読んでみたいと思います。要所要所に登場する心を揺さぶる台詞といい、いろいろな人物の心の変遷を投影する方法が素晴らしかったりと、本作は脚本(ほん)が凄くいいのです。映像や演出的には特筆して凄いというポイントはないものの、お話の構成を巧みにするだけで、これだけ素晴らしい作品ができるとは。。予告編で感じ取れるイメージとは違った作品ですので、是非騙されたと思って観てみてください。