n0701

レッドタートル ある島の物語のn0701のネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

荒れ狂う海に難破したボート、うねる波に飲まれ、なす術なく流される男。

絶望的な場面から物語は始まる。

辿り着いたのは無人島。草木の生い茂る辛うじて生活できるレベルのギリギリの空地。

男には歴史がない。名前もなければ言葉もない。無人島には照りつける日差しとスコール、少量の木の実や僅かな魚や蟹しかない。

彼は木や竹をまとめては舟を作り、無人島からの脱出を図る。しかし、幾度となく行われる脱出の挑戦も、途中で舟が崩壊し、頓挫する。まるで船底から何かが突き上げてくるような振動を感じ海に潜るも、そこには何もない。

そんな挑戦を続けたある日、一匹の赤いオサガメに出会う。この赤いオサガメが、男の舟を破壊したと思い込んだ男は、陸地まで連れていき、引っくり返して放置する。

すると、あろうことかカメは女になる。

これは言わばキャストアウェイで言うところのウィルソンなのかもしれない。架空の「友人」を作り出すことで、精神を保つための手段だ。

そして、女との生活が始まり、やがて子どもが産まれ、仲睦まじく三人での生活が始まる。そんなある日のこと、カモメが騒ぎ、潮は引き、不吉な轟音と共に津波が押し寄せる。

まるで東日本大震災後の津波のように、塵芥に汚れ、あらゆるものを薙ぎ倒し、巻き込んでいく津波。

男は波に飲まれ、島から遠く離れた場所まで流されてしまう。そこに、息子と仲間のオサガメが一緒に助けに向かい、救助される。

間一髪難を逃れた男は、荒れ果てた島の木々を家族で集めて燃やし、これまでの生活を戻すために、復興する。

やがてまた月日は経つと、息子が旅立つ決意をした。仲間のオサガメと共に殆ど身体一つで旅立つ息子を夫婦は寂しそうに見送る。

さらに歳月が過ぎ、夫婦は老いさらばえ、やがて死が訪れる。男は白髪だらけになった身体をいつもの寝床に横たえて息を引き取る。

すると、それまで人間だった女が、赤いオサガメに戻り海へ帰っていく。死んでいったかつての夫を名残惜し見ながら、深く、遥かなる海へ。

息子が独り立ちする様は、まるで友人と実家を出ていった子どもそのもののようにも見えるし、カメが家族の元を離れて、元の自分自身の生活に戻ったようにも見える。

助けなかった亀が、亀として最後に海に向かって行く様は、浦島太郎とは異なり、もっと冷たい、野性的な感情にも見える。

あの無人島は、心を表現していたのかもしれない。
n0701

n0701