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ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.5
 2014年に大ヒットを記録した『ミュータント・タートルズ』新3部作(予定)第2弾。シュレッダーとエリックを逮捕し、NYの危機を救ったところから1年、本来ならタートルズが浴びるはずだったNY市民の熱狂はヴァーン・フェンウィックに丸々乗っ取られ、タートルズの4人は相変わらず日陰の身に甘んじている。4匹のカメたちの師匠であるネズミのスプリンターは健在ながら、今作では一歩引いたところでタートルズの活躍を優しく見守っている。チャンネル6を辞め、今は地下に潜り、警察とは別にシュレッダーの動向を追うエイプリル・オニールとの関係は相変わらず良好で、4男ドナテロが開発した通信機器を駆使し、タートルズとエイプリルは頻繁に連絡を取り合っている。一方、前作で手柄を総取りしたヴァーン・フェンウィックも、エイプリル・オニール同様にチャンネル6を退職し、セレブ・タレントとして軽薄な活動をしている。前作ではドジっ子のエイプリル・オニールのレポーターぶりを、先輩カメラマンのヴァーン・フェンウィックが優しく見守る姿が印象に残ったが、今作のフェンウィックとエイプリルの関係性は前作とは真逆の展開になっているのが面白い。ジャーナリスト気取りだったエイプリルは、まるで地下諜報部員のようなシリアスな活動を続ける中、フェンウィックはNY市内どこでも顔パスで入れる魔法の鍵を持ちながら、自分の息の入った袋を200ドルで売るというゲスな活動を続けている。シュレッダー役は前作のトオル・マサムネから、同じくアジア系のブライアン・ティーに変わり、NY市始まって以来の重罪犯として護送されようとしているのだが、エイプリルの嫌な予感が的中し、NYは再びシュレッダーの危機に晒される。

だが敵役という観点でいえば、シュレッダーよりも無理矢理、彼の子分にさせられるビーバップ(ゲイリー・アンソニー・ウィリアムズ)とロックステディ(ステファン・ファレリー)の方が何倍も強烈な魅力を放つ。紫色のミュータンジェンを注入され、人間からモンスターへと変身した彼らがタートルズの前に立ちはだかる。護送車の運転手だが、最初は端役にしか過ぎないと思われていたケイシー・ジョーンズ(スティーヴン・アメル)のホッケー・キラーぶりは完全にホラーだが、ローラーブレードの迫力が素晴らしい。序章となる前作では細部まであえて踏み込まなかった4兄弟のディテイルも今回は緻密に描写する。最初は一枚岩だったはずのタートルズに亀裂をもたらすのは、4人の中にある人間たちに賞賛されたいという自尊心に他ならない。ハロウィン・パーティの仮装の列に紛れ込むミケランジェロの描写は、翻って仮装パーティの中に混じることでしか、自分たちの特殊な姿を晒せないタートルズたちの微妙な内面を吐露している。長男でリーダーでもあるレオナルドの人間になりたいという思いが、次男ラファエロとの不協和音を生み、4人のタートルズは2人同士の分断作戦を余儀なくされる。アクション面で言えば、監督がジョナサン・リーベスマンからデイヴ・グリーンに代わっても、前作同様に落下を駆使したアクション演出は至る所で繰り返される。導入部分で繰り広げられたカー・チェイスに始まり、中盤での飛行機へのダイブ〜南米のイグアスの滝の落下シーンは圧巻の名場面である。

タートルズの4人の日陰の存在(ダーク・ヒーロー)への葛藤が随所に見られるが、映画自体は決して9.11以降のアメリカン・ヒーローものを追随しない。タートルズを束ねるレオナルドの葛藤は、師匠スプリンターの含蓄ある言葉に励まされ、まるで『スター・ウォーズ』シリーズのような20世紀的な善と悪のくっきりとした葛藤に揺れる。今作の悪役がシュレッダーもカライ(ブリタニー・イシバシ)も共にアジア系で、バクスター・ストックマンが黒人なのはただの偶然だろうか?ビーバップとロックステディのシュレッダー以上の存在感は、彼らが白人であることとも無縁ではない。そもそもがカメを主軸にした物語において、白人至上主義を批判すること自体がナンセンスなのだが、DCコミックやマーヴェル映画のアメリカン・ヒーローものが明らかに9.11以降の世界の有り様を提示するのに対し、今作の9.11以前のクッキリとした善と悪の構図は、プロデューサーに名を連ねたマイケル・ベイの肝入りなのは想像に難くない。アメリカの現状を踏まえて制作される昨今のDCコミックやマーヴェル映画に対し、今作は明らかに前時代的な勧善懲悪で、ニューヨークの治安を守る。アメリカン・ヒーローものは時代に即すべきなのか、それともフィクションとして徹底的に戯画化すべきなのか?今作はどんどんシリアス化するDCコミックやマーヴェル映画の潮流とは別の方向に進んで行く。
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