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苦悩のリストのnetfilmsのレビュー・感想・評価

苦悩のリスト(2023年製作の映画)
4.2
 今やスマフォのカメラは刻一刻と日々変化していく情勢を、多くの人々に拡散するツールとして存在価値を高める。スマフォの持つスマートな機動力をここまで活かしたドキュメンタリーはなかなかない。2021年、アフガニスタンからのアメリカ軍撤退を契機にタリバンが再侵攻を開始。国外脱出しようとする市民で空港はパニックに陥った。7月には全土を掌握したタリバンからの迫害や処刑等、生命の危機に直面したアーティストや映画製作者を救うための救援グループが発起。モフセン・マフマルバフ監督はじめファミリーも、約800人の「リスト」を元に各所への呼びかけしてゆく中、リストから人数を絞らなければならないという苦渋の選択を迫られる。空港周辺の市民たちがパニックに陥る中、遠く離れたロンドンで交渉に当たるマフマルバフ・ファミリーは電話やメールで対応しながら、刻一刻と迫るリミットと避けられない「選択」に感情を揺さぶられてゆく。その過程をスマートフォンで撮影した映像は、歴史的な緊迫した状況の記録であると同時に、家族それぞれの信頼と愛情を描き出すものだった。

 このリストと呼ばれる選民に疑問を抱いたのは何も私だけではあるまい。通話先の相手はいったい誰なのか?そしてアフガニスタン国籍ではなく、イラン国籍であるモフセン・マフマルバフにどうしてこのような権限が与えられているかには幾つか理由がある。土日の本人が登壇したトークショーによれば、彼自身の40数本に及ぶ映画の中で3分の1にあたる映画を母国イランではなく、アフガンで撮影したこと。その撮影の中で様々な芸術家たちと交流し、対話を重ねた。それがこの約800人の「リスト」に繋がったとマフマルバフは語る。現在イランから英国ロンドンに家族ごと亡命を果たしたマフマルバフはイギリスとフランスの大使館へのロビー活動の機会を有していた。誰を救い出し、誰を切るかという遠隔操作による恣意的な作業は確かに打ち切られた人々の尊厳をある程度無視している。然しながら限られた時間の中で、文化の一翼を担う人々を1人で多く救おうとした彼らの判断はLINEに次々に届くテキストや映像の混乱の中、相手先との秘密裏の交渉を静かに醸成して行く。この内部で行われる遠隔操作の一部始終は、モフセン・マフマルバフの次女であるハナの気転により組み上げられる。ではいったいマフマルバフ・ファミリーが誰と会話していたのかは依然として不透明なのだが、身元を明かせば命を狙われるというモフセンの言葉に全てを察する。
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