Kohtaro

ダンケルクのKohtaroのネタバレレビュー・内容・結末

ダンケルク(2017年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

この映画の1番の特徴として、戦争映画なのに「敵」と「血」が一切描かれない。ということがあげられると思います。

ダンケルクに包囲された連合軍の救出劇という作品なのに実はこの映画、ナチスドイツの人間は、最後の最後スピットファイアの操縦士が殺される時まで、全くと言って良いほどうつりません。そして赤い血も一切流れなかったように思います。

この映画のコンセプトとはなんだったのか?

きっとノーラン監督は、この作品で戦争の悲惨さを描きたかったわけじゃない。人の汚いところを描きたかったわけじゃない。むしろその逆。極限状態で人が人を救おうとする、人の善意を描こうとしたんだと思います。

この映画に出てくる人はみんな英雄。誰しもが途中過程はどうあれ最後は必ず人を思いやる気持ちというものを持ちます。

自分の命を捨てる覚悟でメッサーシュミットを追撃するプロペラの止まったスピットファイア。あの感動たるもの凄まじかったです。

でもちょっと待ってください。戦争はこの映画で描かれてるような綺麗ごとだけの世界か?ここで生き残った人たちはこの後、戦争で人を殺していくんじゃないのか?

この映画は英雄譚として本当に素晴らしいとは思いますが、英雄譚であるがゆえにものすごく視点が偏っているとも思います。確かに完全な善ではないキャラクターはたくさんいたから単なる英雄譚には終わってないのかもしれない。でも、とてもじゃないけど連合軍に家族を殺された人、とかには見せられないような内容。

2008年に『ハート・ロッカー』が公開された時、その映画の内容がアメリカ視点であるのにアカデミー賞を受賞したとされ、その批判として『ルート・アイリッシュ』という映画が作られたことがありました。

この作品の完成度の高さは誰もが共感するであろうし、興行収入や批評家レビューの得点などでもきっと好成績を取っていくんだろうと思います。

でもきっと世界のどこかにこの映画を悪く思う人もいるはず。きっとそんな人たちの中で誰かがまたこの映画とはコンセプトを別にした作品を作って行くのだろうと思います。

この戦争映画というジャンルの動向がどうなっていくのかを将来語るに当たって、きっとこの作品は映像面を含めて避けて通れないものになるのでしょう。

この映画が将来の戦争映画にどんな影響を与えていくのか。楽しみです。
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