アキラナウェイ

ハロルドが笑う その日までのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

3.7
IKEA好き〜。
広い店内を練り歩いて、頭の中で模様替え。
あれはあっちに置いて、それはそっちに置いて。
夢のインテリアコーディネートを終えて、
レジに持って行ったのは299円(税抜き)のハンガーだけとか。その後、50円(税込)のソフトクリームを食べて帰るとか。

よくある。

そんな世界最大の家具量販店IKEAの台頭により、人生を狂わされた男ハロルドの物語。

ノルウェーで長年高品質に拘って家具店を営んできたハロルド。隣にスウェーデン発のIKEAがオープンした煽りを受け、彼の店は閉店に追い込まれてしまう。時を同じくして、認知症を患っていた妻を亡くしたハロルド。仕事も愛する妻も奪われた彼は、IKEAの創業者イングヴァル・カンプラードを誘拐することを決意する。

オープニング。

ハロルドが何十年も掛けて、家庭を築き、家具店を開業する軌跡を何枚ものスナップ写真で見せる。

続けて、何ヶ月かでIKEAの大型店舗が建て上げられていく様子を早回しのカメラで映す。

何十年と何ヶ月の皮肉な描写が対照的。

旅の途中で出会うエバという16歳の少女とハロルドとの交流が素敵。やはり、ロードムービー歳の差友情派はいいなぁ。

そして、偶然にも程があるけど、飛んで火に入る夏の虫なカンプラード。ひょっこり誘拐が成功しちゃってからが、また面白い。

IKEAの創業者の事なんて、まるで知らなかったので、一旦Wikipediaで下調べ。カンプラードは倹約家で知られ(要はドケチ)、若い頃はナチスに傾倒していたんだとか。映画の中のカンプラードも、しっかりそのキャラと小ネタを踏襲していて、この辺りは北欧の人達にとっての笑いのツボなのかも。

誘拐に成功したとは言え、ハロルドは誘拐の素人だし、カンプラードは言う事を聞かないし、終始ドタバタ。

氷が張った真冬の湖にドボンして、2人で凍えて、半裸で抱き合い暖め合うおっさん達よ。なにこれ面白過ぎるー!!

ああ、そうか。
この映画の人達は、何もかもが上手くいかない人達なんだ。

仕事も妻も失い、息子との関係も拗れてしまったハロルドも。彼の息子のヤンだって、失業中で家族に家を追い出されてしまう。エバは、男を連れ込んでばかりの母親に嫌気がさして家を出たがっている。成功者の様に見えたカンプラードでさえ、息子に誘拐された事すら気付かれていない。

皆んな、思い通りの人生なんて生きていない。

人生に躓いて、うろうろと回り道を繰り返して、
人の温もりを知り、人と向き合おうと思えてくる。

物事が上手くいかなくて、ハロルドは思わず笑ってしまう。

人生という海を必死の形相でバタ足で泳いで、前に進めない様な時も。そうか、笑ってしまえばいいんだ。

北欧ならではの白銀の世界。
凍てつく寒さの中で、ほっこり温まる素敵な映画。