幽霊的な存在の扱いを生者の背後を周遊する不穏な影としてのみでは終わらせず、きちんと顔まで鮮明に写してみせるのが黒沢清流。
地続きなはずの日常が不意に瓦解する瞬間の呆気なさを諦念とも異なるドライな眼差しで見つめ続ける長回し演出が特に冴えてて、『トウキョウソナタ』的な、なんてことないカットのさなかで人物が前触れを見せずに階段から転げ落ちるショットなんかは、まさに不安定な基盤の上に成り立つ私達の住む世界を神話のように相対化してみせる。
本作では登場人物の視点に追従したカットと、所謂神的な視点のカットが混在し、その不規則な順列から観客に見えている情報を不確かなものとしているのだけど、同じ空間で起きた出来事を異なる視点から反復させることで事実を誤認させて(銃の持ち主)、その違和感を映画の駆動力へと変換してラストまで突き抜けているのが凄いと思った。思ってた方向性とかなり違うところへ辿り着いたけどこれはこれでいい。