MikiMickle

グリーンルームのMikiMickleのレビュー・感想・評価

グリーンルーム(2015年製作の映画)
3.8
売れないハードコアバンド「エイント・ライツ」は、ワシントンDCからはるばる西海岸へとライブへとやってきた。しかし、出演したのはしがないダイナー… ツテでポートランドのライブに出演できることになるが、そこは人里離れた他者を拒むようなライブハウス。客はみんなネオナチだった。完全アウェーの中でライブを終え、そそくさと帰ろうとした矢先、楽屋でネオナチたちの殺人現場を目撃してしまう…
楽屋に閉じ込められたメンバーと、殺害された女性の友人少女…
冷酷なライブハウスのオーナーでネオナチのボスは、彼らを全て抹殺し濡れ衣をきせようと目論み、次々にネオナチ軍団を送ってくる。果たしてメンバーたちはこの楽屋(グリーンルーム)から脱出できるのか…

限られた狭い空間の中、外には重装備なネオナチ軍団、凶暴な犬たち…
一方でメンバーの武器は僅かなもの。
何もわからないアウェーのワンシチュエーションで展開されるスリリングでバイオレンスなアクションスリラーホラー‼‼

まず、否応なしにネオナチ軍団が怖い。狂信的な若者は、自ら罪を被り、警察へのカモフラージュになる。命の尊厳や尊さも考えず、躊躇なしに命令のままに襲って来る様は、スリラー的怖さだけでなく、社会風刺としての恐ろしさも感じさせる。(偶然にも、元ネオナチであった女性のインタビューを読んだのだが、若者たちはその真意や歴史的な事は全く知らずに従うだけだという事が書かれていた。)
普通は知ることのなかなかない闇の実態… それを垣間見れる…というか、突きつけられるものだった……
ジェレミー・ソルニエ監督は、前作『ブルーリベンジ』でも社会の光のあたることがない深い闇を描いており、今作でもそういった意思を感じられた。

そして、そんな状況の中での攻防戦は生半可なものではなく、激しいバイオレンスに背筋が凍るほどだった。狂気と恐怖が入り交じった緊迫感‼ 濡れ衣を着せるために、極力銃を使わずに仕留めようとする姑息さも不気味で、明確でないじわじわさが怖い……陰湿……
また、予想とは違う想像以上の展開に驚かされ、緊張感が途切れない‼‼ 犬も怖い…

その怖さを増長させるのは、前半でこのバンドメンバーに対しての親近感があるからだ。なけなしのお金で、ガソリンを盗みながらも、焚き火を炊いて野宿しながらも、寝不足でとうもろこし畑につっこみながらも、ライブが出来ると意気揚々とやってきた彼ら‼
ほのぼのとしたロードムービー感の中、メンバーの個性と仲の良さも表れており、また彼らの思想はハードコアとパンクそのもので熱い‼音楽愛‼ 思わず感情移入してしまう。故に、「助かってほしい‼」と手に汗を握ってしまうのだ。
本当に素晴らしきバイオレンススリラー

さて、音楽面で言ったら、もう、これは私にとったらヨダレもので♥
まずこのバンド「エイント・ライツ」がワシントDCのインディーズハードコアバンドという事で、DCハードコアネタがいっぱい♪Fugaziのステッカー、マイナースレットやデッドケネディーズのTシャツ‼ 話にも色々出てきてテンションあがる♪ エンドロールではBad Brainsの「Right Brigade」‼‼ ぎゃぼ〜♥

DCハードコアは、他の流れや商業主義など関係なく、自らの力でDIYでそのシーンを確立してきた唯一無二のムーブメント。
あ、Bad Brainsは1970年代に結成されたニューヨークなどの東ハードコアの創設バンドのひとつで、黒人と白人が混ざったもので、↑マイナースレットなどと共にハードコアの先駆者でもあり後のオルタナにがっつり影響を与えたの。
ネオナチとパンクハードコアの確執は色々あるけれど、長くなるから割愛するけれど、そのアティテュードが彼らのバンドでも伝わってくるの♪
そもそも、エイントライツがネオナチたちの前で最初に演奏する曲がDEAD KENNEDYSの「Nazi Punks Fuck Off」‼ 「ナチパンクスぶっ殺すぞ‼」って叫び歌うの。殺されたいの?と(笑) でも、それがハードコア‼信条は曲げない‼ ほんと、かっこいいわ♥

使われた音楽も、舞台となるポートランドを代表するポイズン・アイデアや、ナパーム・デス、スレイヤーなどなど‼ こんな中でのネオナチとの戦いなのだから興奮もひと押し♪

あぁ、ついハードコアに熱くなったけれど、キャストもよい。イモージェン・プーツは可愛いし。ネオナチリーダーのパトリック・スチュアートの貫禄‼‼
そしてなにより、不慮の事故で若くして亡くなってしまったアントン・イェルチンが、ハードコアとポストハードコアとエモを合わさったようなピュアな人物で、愛おしく、切ない……… 良い俳優だったのに… つい、この映画とリンクしてしまう…
ほんと、ハードコア/パンク好き・バイオレンス好き・スリラー好きにはたまらない映画だったし、別にその音楽に詳しくなくてもスリラーとして充分怖いし、闇の文化も感じられる映画だと思う‼

余談だけど、監督のこだわりも音やカメラアングルなどで随所に感じる。色においては前作では全篇で見られる悲しげな青と差し色の赤が印象的であったけれど、今回は緑。楽屋が「グリーンルーム」で、ボーカルは緑モヒカンで、舞台は緑に溢れた山林の中だったけれど、なぜ緑なのか… 色々考えたけれど、ハードコアとの関連も考えたけど、よくわからない… ただの赤でも青でも黒でもない色。DCハードコアはある意味緑なのかもしれないなぁ… また、安息の場所である楽屋が惨劇に変わるっていう事だけなのかも… 結論は出ない……

さて、この映画で何度も出てくる「無人島に一つだけバンドを連れていくなら何?」という質問。これがまた、この映画の力の抜ける良い要素であるのだけれど、難しすぎて答えがでないw

あーぁ、熱量極まりなく長々と書いてしまった事で、前半に書いたスリラーとしての面白さが薄れてしまった……で、ハードコアの良さもわかって欲しいし、映画の伝えたいであろう本質も代弁したい……変なレビューになってしまった
MikiMickle

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