MikiMickle

パターソンのMikiMickleのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
4.0
ジム・ジャームッシュ監督の『オンリーラバーズレフトアライブ』から4年ぶりの作品。

ニュージャージー州パターソンに住むバスの運転手のパターソン(アダム・ドライバー)。
毎朝6時半前にきっちり起きて、シリアルを食べ、妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)の作ってくれたお弁当を持って仕事に向かう。
同僚と挨拶し、仕事をこなし、妻と愛犬の待つ家に帰る。
犬の散歩途中に、毎日ほぼ同じ時間にバーに寄りビールを飲み、妻の横で眠りにつく。

彼が人と少し違うのは、秘密のノートに書き溜め続けている自作の詩。 妻に認められながらもどこに出すでもない、日々紡がれていく詩たち。
そんなパターソンの月曜日の朝から月曜日の朝までの1週間の映画。


同じような毎日。他人からしたら退屈かと思える毎日。
しかし、確実に違う日々。
少し風変わりな美しい妻は、毎日何かしらを白黒のペンキで塗ったり作ったり、新しくギターを始めたり、料理下手なのにカップケーキを市場で売り出す事に興奮したりと、未来への想いに輝いている。
パターソンは毎日バスの乗客の話に耳を傾け、少し幸せな気持ちになったりする。
馴染みのバーでは、マスターや客との交流とアクシデント。壁に貼られる街の殿堂入りスターの写真も増えて行く。
何気ない日常の中にある変化。

ジム・ジャームッシュは、数少ない会話やその間で、丁寧な丁寧な描写で、穏やかに、ユーモラスに、しんみりと優しく、その日常を愛おしく感じさせてくれる。
変わるものも変わらないものも、どちらも。

パターソンの詠む詩もまた、日々の日常を観察し、自分の中で消化し、アウトプットしたもの。内的に外に出されたもの。
それが画面上に表される彼の筆跡と心地よい朗読によって、言葉少なく何を考えているのかハッキリとわからないパターソンの思考を少し垣間見る事が出来るのだ。わからない事もある。だから、余計に惹き込まれてしまう。

そして、彼の淡々と進む日々をずっと見ていたい気持ちになる。何が起こるのか・何も起こらないのかもであるし、出てくる人々(偶然出会う人々(永瀬正敏演じる謎の日本人など)やワンチャンも含め)の、個性と空気感に自然と心惹かれるからでもある。
前述した妻の無邪気な前向きさと、それに対するパターソンの素朴な愛に対しても。彼のふと見せる笑顔も。

不意に笑わされ、不意になぜだかじんわり感動させられ、不意にある衝撃に驚きを隠せずに時にハラハラさせられた映画だった。 しかし、それがあくまでゆったりと流れていく。 まるで、パターソンの書く詩のように。ゆったり感じる心地良さ。

ポエトリーな映画と言ってしまうのは簡単だが、しかし、出来事や感情や詩がうまく連呼しあい、ポエトリーなジャームッシュによって、一つの詩的な映画を作り上げているのだなと感じる。素晴らしかった。幸せな時間を貰えた。
変わらないけど変わる毎日の尊い愛おしさ。生きるってそういう事。
MikiMickle

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