"詩"と歩む1週間
起床して通勤、日が暮れたらまた日が昇る。そんな日常の風景を、月曜日から日曜日までの7日間描くジム・ジャームッシュ監督作品。別に特別なわけではない、何気ない日々の中で小さな生き甲斐を見つけることが幸せの基盤になることを教えてくれます。そこにドラマは必要ない。
ニュージャージー州にあるパターソンでバス運転手として働く主人公パターソン。彼は暇さえあればノートに詩を書く趣味という範囲内での詩人。月曜日から日曜日まで、同じシチュエーションでの始まりになりますが、それぞれに出会いがある。バス内で聞こえてくる乗客の会話、詩を書く少女、彼女と別れて2週間も経つのに未練タラタラな男など。そして家に帰れば妻ローラと過ごす。決して裕福なわけでもないのに、「幸せな日々を過ごしているな」と思わせてくれるパターソンの毎日。"今"というこの瞬間を生きている旅人です。
パターソンが欠かさず詩を書くように、ジム・ジャームッシュ監督も「映画」という題名での詩を書き記したかのようなものが本作『パターソン』。バス運転手として働く以上、嫌でも他人の話や外の風景が見えてしまう、ある種の人間観察。これは彼の過去作でも通ずる部分であり、『ナイト・オン・ザ・プラネット』は同じ時間に生きる人達の過ごし方をタクシー運転手を挟んで見せたもの。『ミステリー・トレイン』でもホテルのフロント係とベルボーイが異なる3組の宿泊客の接客を。監督前作の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』ではヴァンパイアという目線で、人間そのものの存在価値を高みの見物状態で眺める。今までの彼の作品で、人から見た人が面白く思えたのも、今となっては「詩」のような作りだったからなのかもしれません。
作中最も重要なシーンを余裕で独占した永瀬正敏。パターソンにまた新しい月曜日を与えた、まるで「神」のような存在にも見える。詩で始まって、詩で終わる。映画全体を見ても綺麗に韻を踏んだ作りになっていました。意味のない日常こそ愛す価値がある。
2025.1.18 初鑑賞