ゴマシオ

パターソンのゴマシオのネタバレレビュー・内容・結末

パターソン(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「あゝ、ジム・ジャームッシュの映画を観たなぁ…」という気分にさせてくれる快作でした。
それもアンニュイな心持ちではなくて、心地好い気分で映画館を後にする事が出来る作品でした…

市井の詩人が過ごす一週間が、ほんの少し面白く描かれている作品。
端的に紹介すると、そういう作品です。
ただそこはジム・ジャームッシュ。
一筋縄ではいきません…

バスドライバーという設定は上手いなぁ〜。
今までのジャームッシュの映画だと、主人公から話しかけて(または話しかけられて)広がるちょっとした会話が、今回の作品では能動的に動かなくても、ダウンタウンの人々のたわいもない話に聞き耳を立ててそのやり取りを愉しむ事が出来るというシチュエーション。ちょっと滑稽なそのやり取りを愉しむ主人公。

中でも印象に残ったのは、意気地が無い中年男2人のモテ自慢 (笑)。そのやり取りを若い女性に見透かされるシーン。
ほんのちょっとした女性の仕草でそれと分かるのは、流石!
このシーンは、ジャームッシュ節が効いていると思いました。

そして今回の作品では、日々の暮らしの中から詩作のヒントを得ている主人公のアダム・ドライバーの演技が、とても秀逸で印象的でした。

日常生活の機微に翻弄されつつも、その状況をやり過ごしつつ、自分の愉しみを見つける主人公を、とても自然に、抑揚を抑えた演技で表現するその実力ときたら…。
その上、ジム・ジャームッシュの作品でいうと、ただそこに居るだけで雰囲気を醸し出していたジョン・ルーリーを彷彿とさせる存在感。
とても稀有な役者だと改めて認識しました。
その本質を現す事が出来たのは、この映画だったからだと思います。
今後ジャームッシュ作品のレギュラーになるかもしれませんね。

また、28年振り!に出演の永瀬正敏氏の印象的な役柄も、昔からジム・ジャームッシュの作品を楽しんできたファンには嬉しい限りですね。
彼の出演した場面は、本当に良いシーンで感慨深く、心に残りました…

こう作品を辿ると、淡々と進行する作品に思われるかもしれませんが、ジム・ジャームッシュならではの引っ掛かりが、其処彼処に色々と散りばめられていて、その辺りの独特さは面白かったです。

ただ、今回の作品で一番の引っ掛かりと言えるのは…

恐らく劇伴、BGMでしょうか。

正直、最初に出勤する風景に当てられたBGMは、とても違和感を覚えました。
そのシーンにまるで合っていないそのBGMが流れた時は、「あのジャームッシュが…このチョイス?」と、甚だ疑問でした。
普通ならもっと住んでいる町を表現する様な音楽が充てられそうなシーンなのですが、画面に入り込む事を、映画の世界へ没入する事を拒否する様な音楽なのです。

「一体どうして?」と思いましたが、この音楽が掛かるシーンにはある共通点があって、それがヒントになりました。

これは是非映画館で確かめて下さい。
ジム・ジャームッシュ、今回の作品での一番のトリッキーな仕掛けだと思います。

画面の向こう側で、ニヤニヤと悪戯っぽい眼差しでこちら側を伺う彼が垣間見える気持ちがしました。

大スター等が沢山出演している訳ではないし(でもメソッドマンが出演!!!)、莫大な制作費を注ぎ込んだ作品ではないでしょうが、非常に詩的で洗練された今回の作品は、21世紀に於ける彼の代表作になるのではないでしょうか…

色々とまだ話したい事ばかりの新作ですが、そろそろこの辺りで…
公開されたら、もう一度観に行こうと思います。
ジム・ジャームッシュの作品のあの雰囲気をまた味わいたいですし、パンフレットも読んでみたいし…

最後に。
この映画を観た後、きっと一言言いたくなりますよ…

「uh‐huh?」
ゴマシオ

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