安堵霊タラコフスキー

パターソンの安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

パターソン(2016年製作の映画)
5.0
ジャームッシュということで良いものを期待していたけど、まさかジャームッシュの個人的ベストを更新するほどとは思わなかった

世の中には物語や人間関係の変化を描いてこそ映画だと勘違いする人物が誰とは言わないもののよく見ることからもわかるように物語映画ばかり古来から乱立され、純粋に映像で訴える作品が少ないことを日々憂いている身としては、日常生活のみをほとんど描き事件と呼べるものも三つしか起こらないもののその日常生活が実に魅力的で面白いこの作品は、ジャームッシュの記念すべきデビュー作であるストレンジャーザンパラダイス以上に愛すべき映画となった

それにしても、出演者である永瀬正敏もインタビューで話していたことだが、パターソンという町に住むバス運転手の詩人パターソンの一週間を、彼の見る風景や彼の聞く会話、彼の綴る飾らない詩と共に描いただけでここまで魅力溢れるものになるのが本当に凄く、ジャームッシュが稀代の天才映像作家にして芸術家であることを改めて思い知った

アダム・ドライバー演じるパターソンと同居する彼女、そして彼らの飼うブルドッグの生活も円満で幸せムード全開にも関わらず全く嫉妬心が湧かずにこのまま大きな不幸も起こらず末長く暮らしてほしいと素直に思えたのも不思議ながらも素晴らしい点で、おそらく彼らの他愛ない生活のみに焦点を当てたとしても半日以上は余裕で鑑賞可能だったろう

ちょくちょく出てくる様々な双子や彼女の可笑しな手作り衣装等茶目っ気のある要素の数々もジャームッシュらしい愛嬌が感じられて好印象だったのだけど、そういう意味で最も良かったのはラストにちょっとだけ出てくる前述の永瀬正敏で、あえて日本人にしなくてもいいところで久々に永瀬正敏を起用するだけでなく些細ながら重要な役割を持たせる点が良い意味でエゴイスティックでジャームッシュの人柄を感じほっこりした

他にも色々語りたいけどキリがないのでここらで切り上げるとするけど、兎にも角にもミニマルながら素晴らしい傑作で思いがけずオールタイムベストが更新されたことに歓喜したけど、審査員次第でパルムドールも受賞できたはずのこの作品がパルムドッグだけに止まったのは実に惜しい限りだ

とりあえず今度ウィリアム・カール・ウィリアムズの詩集読んでみることにしよう

#filmarks2017