スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督が、カナダのノーベル賞作家アリス・マンローの小説を原作に、一人の女性の波乱に富んだ半生を描いたドラマ。
マドリードに暮らす美しく洗練された中年女性ジュリエッタ。現代を出発点に、彼女に隠された過去と、12年前に理由を告げずに消息を絶った愛娘との再会までをジュリエッタの回想形式で辿っていく物語。
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映画は、女性器を思わせる赤い服のしわのアップから始まる。そして男性器が強調された「座る男」という彫刻が対比される。
アルモドバル映画の象徴である鮮やかな色彩表現と奇天烈なモチーフの視覚効果で導入部分から引き込む。
映画の中で「パトリシア・ハイスミス」という名前が登場し、本作にもサスペンスの影響を感じることができ、過去に遡って列車のシーンにおいては、どこか古典的サスペンス映画のようであり、列車を追ってくる鹿など、謎めいたモチーフで暗示的な表現もしている。
ジュリエッタは夫ショアンと列車の男性の死によって、罪の意識に苦しみ鬱病になる。
ジュリエッタの人生の中において、同じような出来事が立場を変えて繰り返される。それは因果応報とでも言うものだろうか。例えば初めて会った時ショアンの妻は重病で意識不明と知りながら、ジュリエッタは彼と寝ている。しかし、自分の母親が重病の際に父親が介護者と似たような関係にあるのを目撃すると、父親を許せず何年も音信不通にしてしまう。そして、娘も…。きめ細かく、話が何重にも絡み合っていて複雑なのだが、最後まで話の展開に観客を巻き込ませるベテラン監督の手腕は流石で反復の効果が映画の印象を深めている。
アドリアーナ・ウガルテが演じる若いジュリエッタから、現在の中年ジュリエッタ演じるエマ・スアレスに交代する際、タオル一枚で表現されるシーンが印象的だが、こういったあまりにシームレスな演出もアルモドバル映画で見かける。