Kuuta

リトル・マーメイドのKuutaのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(2023年製作の映画)
3.2
メリーポピンズ続編とリトルマーメイド実写化をロブ・マーシャルに発注するディズニーがおかしい

アニメは飽きるほど見た世代なので公開初日に行きました。フランダーがどれくらい魚なのか楽しみにしていたがマジで魚だった。

▽良かったところ
・主演のハリー・ベイリー。7つの海の娘だから人種もバラバラという描写で、公開前から肌の色に文句言ってた人々は駆逐されたと思うが、次第に今作の舞台はカリブを軸にした、欧州も南米もごちゃ混ぜな多文化社会なんだと分かってくる(市場のシーン好き)。中心に座るプリンセスとしての見栄え、彼女のルックスには納得感しかなかった。

・歌声も無論文句なし。Part of your world三段活用、閉塞感と憧れ、自分の求める世界が見つかった喜び、変化する感情を見事に表現していた。泣いた。

・アースラがデカい

・エリックも今の世界に違和感を抱いている、という掘り下げ(彼も外の世界のガラクタを集めている)。海<地上の図式を回避し、海でも陸でもない空を見上げる。

▽ダメだったところ
・弛緩したショットと単調な編集。絵持ちしない焦りを隠すように、何かが飛び出すびっくり演出を多用するのだが、そういうのはメリハリとは言わない。トリトン王との会話の切り返しの野暮ったさ

・ミュージカル、予算不足なのかやる気がないのか、地上シーンは寄りのカットが多い。重力下のアクションを丁寧に撮って欲しかった。

・海中の無重力アクションも物足りない。アンダー・ザ・シーはかなり残念。CG丸出しの生き物と、淡々と切り替わる画面からは、海の底の自由は伝わってこない。アリエルをこのシーンに参加させているが、現実の肉体とCGと水中表現、3つのレイヤーを組み合わせて説得力を持たせるため、どれほど作り手は試行錯誤したのだろうか。30年前のアニメに、編集も動きのアイデアも完敗している。

・会話と説明セリフで画面が止まる。映像で語らないので上映時間が伸び、日没に向かう時間制限の緊張感は薄れている。
例えばエリックの船は「色んな国の交易品でいっぱい」と説明される。沈没シーンで、海中に無数の交易品が浮かぶ混沌を期待する。しかし、実際には殺風景な海で、後に破壊されるエリックの彫刻だけが強調される。要は本筋を機械的になぞっているだけで、映像がこちらの予想を超えてくれない。

・セバスチャンのアリエルへの態度の変化、フランダーの奮闘が弱く、アニメより50分長いのにサブキャラが立っていない。細かい点だが、アリエルがpatheticだと言う歌詞を彼女に聞こえるように歌うアースラはアホだし、それに気付かないアリエルも不自然だった

・アニメだとテンポの良さで誤魔化される終盤の強引さが、ダラダラした展開のせいで浮き立っている。アースラの親戚設定が死んでてもったいない。環境問題も入れただけ。アースラの倒し方は変えたけどこれ以上思いつきませんでした感、オチに至るロジックも弱く、ラスト20分、ロブマーシャルがどんどん力尽きていく感じがした。

・等身大の少女であり、王子様に自らキスしようとする=褒賞ではないプリンセス像を示しながら、トラブルは大体周りの魚が何とかしてくれるアニメ版。古典とモダンの折衷を行くアリエルは、ディズニールネサンスの象徴だ。

今作はこの基本線を保ちつつ現代的なアップデートを試みる企画であり、「キスする目的を忘れる」呪いも意図は分かるのだが、ボディランゲージで頑張るアリエルの能動性が薄れているように感じた。アリエルが積極的なのにエリック側の踏ん切りがつかないハラハラ感が地上シーンの魅力では?尺が持たないから心の声で歌うという反則技も使い、最後に声を取り戻すカタルシスを減らしてしまっている。
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