けまろう

婚約者の友人のけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

婚約者の友人(2016年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

『婚約者の友人』鑑賞。見逃していたのでギンレイホールには感謝の念しかない。フランスとドイツが舞台だからこそできる、戦争の孕む惨さを伝える脚本。
第一次世界大戦で婚約者フランツを喪ったアンナとそのフランツの友人を名乗る男アドリアンを巡る残酷な悲恋の物語。フランス人であるというだけで粗雑に扱われるアドリアンが、友人時代のエピソードを話すことで次第にアンナの家庭に溶け込んでいく。その真意は「フランツの代わりになる」ことだった。実はアドリアンはフランツの友人ではなく、戦場でフランツを手にかけたフランス兵士だったのだ。自責の念からフランツの故郷を訪問したのだった。しかして、嘘のエピソードによりアドリアンは無事にフランツの代わりを務める。それは両親ハンスとマグダの息子愛を受けるに留まらず、アンナの恋心さえ奪っていく。
しかし、フランツの嘘がアンナにばれ、フランツは母国のフランスに帰ることに。手紙を受け取りつつも、婚約者を殺した男を愛してしまったことに葛藤するアンナ。ハンスとマグダにも本当のことを言えず、教会に懺悔に行き赦しを得る。返事を出した手紙が届かなくなってから事態は急変。アンナはアドリアンを探しにフランスへと向かう。そこで向けられるドイツ人への冷たい視線。アドリアンがフランスで受けた仕打ちを追体験する構造がこの舞台ならでは。アドリアンの行方を必死に探し、何とか実家を突き止めるアンナ。そこでは、隠居して暮らすアドリアンとその恋人ファニーの姿が。愛を囁くように音楽を奏でる二人の姿にアンナはショックを隠せない。キスを求めるアンナだったが、アドリアンはそれを拒む。自分の婚約者を奪った男は、婚約者と来月結婚するのだという。このやり場のない怒りにも似た虚しさ。
アンナはハンスとマグダに、フランスでアドリアンと夢のような生活を送っていていつ戻れるかわからないと嘘の手紙を送る。最早二人の生きる希望にもなっている、仮想フランツへの愛情を失わせないためだ。
そして、ラストシーン。ルーブル美術館でマネの『自殺』の前に座るアンナとアドリアン。恐らくこれは現実ではないが、この絵が好きかと問うアドリアンにアンナは生きる希望が湧くと答える。その絵はアドリアンの好きな絵だった。彼女の希望もまたアドリアンに奪われたままなのか。
「フランツ」という題名の真意。背筋がゾッとするほど凄い。
けまろう

けまろう