けまろう

君たちはどう生きるかのけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

『君たちはどう生きるか』鑑賞。下馬評はそこまで高くなかったので期待していなかったが、完全に打ちのめされた。どう生きてきたらこんな作品が作れるのだろうと宮崎駿の才能に改めて驚愕。
病院の火災で母親を失った主人公の眞人。父親が妻の妹の夏子と再婚しそのお腹には既に弟か妹が宿っていた。疎開後夏子と過ごす眞人だが、夏子を新しい母親と認められておらずお母さんとどうしても呼べない。(父の好きになった人と表現)それを観察する本作のピエロアオサギは覗き屋と言われじっと眞人たちのことを観察していた。母親が実は生きていて助けを呼んでいると唆し、住処とする怪しげな塔へ誘おうとするアオサギ。最初の試みは失敗するも、夏子の失踪とともに眞人は塔へと足を踏み入れる。この塔を建てたという大叔父の血を引く者しか入れない世界だという。そこは別の世界という表現だったが、明らかに物語の舞台の此岸に対して彼岸であり、亡くなった母親を救いに、そして新しい母親を探しに行く様はまさにオルフェウスのような冥府下りがごとく。母親はなんと若い姿のまま火を操る女性ヒミとして生きているのであった。どうやら母親はかつて1年ほどこの異世界に居たことがあるらしい。ヒミと一緒に夏子を救い出すという、実母と継母を救いに行く構図は親権をリレーのように繋ぐようで胸が熱くなる。
別世界を支配する大叔父は世界の終わりを予感しており、自らの血縁から後任となる人物を探していた。別世界を冥府と捉えるならば次期ハデースとしての後任だ。しかし、眞人はこれを拒否、夏子とヒミと現世に帰る決意をする。後任不在で冥府の崩壊が始まり、眞人は夏子とヒミを連れて現世に戻ろうとするが、ヒミは別の扉から更に過去の現世へと戻ろうとする。彼女が神隠しに遭った、眞人を産む更に前の時代に。しかし、それでは母親を救えない、焼死してしまうと説得する眞人だったが、「あなたのお母さんになる」と言って戻るヒミ。この母親のバトンを夏子に渡せたことを確認し、死が待ち受けることを覚悟しながらも戻るヒミの笑顔とセリフがめちゃめちゃ泣ける。
一人の少年が成長し二人の愛する人を振り返らずに真っ直ぐに冥府から救い出す現代版オルフェウスの話のように思えた。もう一度観たい。
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