吉田ハム

オール・アイズ・オン・ミーの吉田ハムのレビュー・感想・評価

3.0

※ネタバレを含みます※

本作を一言で表すならば、「鏡」の様な作品である。一見すると一貫性がない様な作りになっているが、これは、トゥパックの清濁合わせた部分を、ある意味無秩序に描き出していくことで、彼の人生をリアリティを持って追体験できるようにするためである。
トゥパックの生涯で起こったいくつかの出来事を並べ、ドキュメンタリータッチで映し出していく。その都度トゥパックが感じた事、起こした行動を描いていき、作品を通して伝えたいメッセージなどは、視聴者が感じた事そのものに委ねられる。観た人によって感じ方が変わる…私が本作を「鏡」と表現したのはこれが理由である。
映画の中盤で、トゥパックは冤罪で裁判にかけられる。実刑を受け、最後に言いたい事があるかと聞かれた時、判事に対し「俺の目を見ない。そんな奴の判決を覆そうたってムリだ」と訴える。私の場合、これが本作のメッセージだと受け取った。黒人や白人という大きな括りではなく、一人一人を見るべきである。
人生は物語の様に起承転結というものがない。様々な出来事が無造作に起こり続け、我々はその中で様々な事を感じる、学ぶ。それはトゥパックも同じであったはずである。彼の事を「ギャングスタラップの指名手配犯」と称すことも出来るだろう。「家族思いの優しい男」、「女好きで酒好き」、単純に「ヤベー奴」…色んな見方ができる。それほど彼は複雑な人間であり、それは我々も一緒であるはずである。
本作は、「人間を外見ではなく内面で判断する」というごくごく当たり前の事をーーしかし、とても難しい事をーー彼の激動の人生を通して伝えてくれる、素晴らしい作品なのである。

以下、雑記。
・でも、やっぱり作品全体が分かりづらい作りだったので、あまり好きじゃない。
・トゥパックの熱烈なファンか、本作の世界観にガッツリハマれる人なら楽しめると思う。
・似たようなメッセージで「私はダニエル・ブレイク」を思い出した。素晴らしい映画なので是非是非。
吉田ハム

吉田ハム